相続税申告ガイド

底地の多い地主が莫大な相続税から助かる方法は「切り離し」しかない

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一口に「地主」と言っても状況は様々です。
特に、底地を多く持つ昔ながらの地主は、苦労ばかり多くて割に合わないものだったりします。世間から「お金の不自由なくいい暮らしをしている」と思われていても、莫大な相続税や固定資産税の負担のために、実際には倹約してつつましい生活をしている地主は少なくありません。
日本において地主は、税金のために先細りするしかないのでしょうか。

底地が地主を苦しめる

底地の問題の元凶は、相続税と固定資産税にあります。
どちらも土地を所有していると課税される税金ですから、資産を持っている以上は課税されるのは当然なのですが、底地には深刻な「負のギャップ」があります。

安い地代なのに、高い固定資産税

固定資産税は、毎年1月1日時点での所有者に対して年4回に分けられた期限までに納入する必要がある税金ですが、地代に対して非常に重い負担になっています。
底地権者として土地を借地権者に貸し出していても、土地の固定資産税の支払義務は地主のみにあり、借地権者は1円も負担しません。

固定資産税の計算方法は以下の通りです。

・固定資産税評価額(課税標準額)×税率(標準税率:1.4%)
※宅地の場合は軽減措置があります。

固定資産税評価額については、物件所在の市区町村で「固定資産課税台帳」を閲覧するか、「固定資産評価証明書」を取り寄せることで調べることが可能ですが、たとえば固定資産税評価額が15,000万円の土地であれば、(15,000万円×1.4%=210万円)となり、年間210万円を支払うことになります。
また、これとは別途、市街化地域においては原則0.3%の都市計画税も課されます。
そして固定資産税の基本となる評価額は3年毎に見直す制度になっており、都市部においては値上がりが続いています。

一方、地代はと言うとほとんど見直しができず、2~30年前の地代のままというケースもザラです。
一般的に地代は固定資産税・都市計画税の3倍が目途であると言われることもありますが、実際には固定資産税評価額の3%少ししかもらえていないことが多く、固定資産税と都市計画税を引くと固定資産税評価額の2%にも満たないケースがほとんどです。

さらに確定申告においては地代を不動産所得として計上しなければならず、所得税の支払いで地代収入の大半がなくなってしまうのです。

実勢価格は低いのに、高い相続税

そして、底地にかかる相続税の問題はさらに深刻です。
底地は土地を自由に利用することが出来ないため流動性が低く、実勢価格は更地価格の10~15%にとどまることがほとんどです。

一方、相続における評価額は実勢価格が低かったとしても、路線価による相続税評価額に底地割合(1-借地権割合)を掛けたものになります。
借地権者の家が建っているにもかかわらず、貸家建付地のような評価減はありません。

例を使って具体的に計算しますと、実勢価格が低いにもかかわらず相続税評価だけが高くなっていることがわかります。

◆前提条件
・所在:関東地方の150坪の底地
・路線価に基づく更地の評価額:1.5億円
・借地権割合:60%

◆実勢価格(業者に売れる価格)
路線価は実勢価格のおよそ80%であることから
・実勢価格(更地)=路線価に基づく更地の評価額1.5億÷0.8=1億8,750万円
業者の買取価格は実勢価格(更地)の10~15%なので、仮に12.5%だとすると、
・実勢価格(底地)=1億8,750万円×12.5%≒2,343万円

◆相続税評価額
・底地の相続税評価額=1.5億円×(1-60%)=6,000万円

上記事例では、売ろうと思った時に実際に売れるのは2,343万円なのですが、相続税評価額はその倍以上である6,000万円になってしまっています。そしてこのようなケースは特殊な事例ではなく、ほとんどの底地がこのような状況になっているのです。
相続税の税率は、法定相続分に応ずる取得金額が6億円超の場合に最高税率の55%です。そこまでいかずとも、取得分が1億円超になると40%です。
つまり、上記のような「負のギャップ」のまま相続を迎えると、取得する相続財産の実勢価格(2,343万円)より相続税負担額(6,000万円に対する相続税)の方が大きくなってしまうことが起きてしまうのです。
結果、日々倹約してお金を貯めても、定期的にやってくる相続のために、預金がほとんどない地主も多いのです。

地主が借地権者にことあるごとにお金を求めるのは意地悪なのではない

上記のように、底地は土地の価値に対して特に相続税の負担が非常に重く、地主は借地権者に比べ圧倒的に不利な立場にいます。

結果、地主の資金繰りを維持する唯一の頼みの綱は承諾料と売渡しかないといえます。しかし、承諾料の発生する建替えや譲渡などは、数十年に一度来るか来ないかというレベルのものです。ですので、当然そのような話が来た場合は、それなりの金額を求めることになるのですが、借地権者からは理解を得られず、地主は借地権者から金の亡者のように言われることになります。
この点において、借地権者は軽い税負担で安く土地を専有しているにもかかわらず、あまりに無責任です。

かといって、地主が割に合わない「地主」をやめることが出来るかというと、先祖代々のしがらみで自由にそれもできないのです。
そして、相続の度にのしかかる重い税負担のために、先細っていきます。

果たして地主が助かる方法はあるのでしょうか?

地主が助かる方法は「切り離し」

このように地主は立場上とても厳しい状況に立たされています。
そしてその原因は「財産に占める底地の割合が大きいため」に起きていることがほとんどです。
その場合、相続をはじめとする底地の問題から助かる方法は「切り離し」しかありません。
それには以下の5つの方法があります。

・底地を借地権者に売却する
・借地権者と一緒に第三者に売却する
・地主が借地権者から借地権を買い取る
・借地と底地を交換する
・資産管理会社に移す

それぞれについて詳しく解説していきます。

底地を借地権者に売却する

底地を最も高値で購入してくれる可能性があるのは借地権者です。
借地権者がその資金を用意できそうであれば、借地権者への売却をまずは検討しましょう。
なぜならば、借地権者にとって底地を買い取ることはメリットが多いからです。

借地権者が底地を買い取れば、土地の所有権を取得でき、地代や更新料を払う必要がなくなりますし地主とのやり取り自体が必要なくなります。借地権者は土地の所有者となれ、自由に土地を活用できるようになるのです。

底地単独では、地主としても自由に利用することも出来ませんし、流動性も低いことから、相続税ばかりが高くて実勢価格が低い(相続で発生する負のギャップ)のは前述のとおりです。
ですので、もし底地を借地権者以外の第三者に売却すると、更地価格の10~15%が目途になってしまいます。しかし、借地権者に売却する場合の相場は更地価格の50%前後となり、実勢価格はもちろんのこと底地割合よりも高くなる可能性があります。

借地権者と一緒に第三者に売却

借地権者も借地を売りたいと思っている場合は、借地と底地を一緒に第三者に売却する方法もあります。

買い手となる第三者にとっても、借地と底地を一緒に購入することで、完全な所有権が手に入るため、別々に売却するよりも高い価格で売れるため、前述の「相続で発生する負のギャップ」も回避することができます。
借地権者に売却希望があることが大前提にはなりますが、第三者への売却はお互いに資金を必要としないため、メリットは大きくなります。

地主が借地権者から借地権を買い取る

借地権者が土地を売りたいと考えている場合、借地権を買い取るという方法もあります。借地権者は税負担が軽いため通常であれば売却に応じてくれませんが、相続などのタイミングで話にのってくることがあります。

地主が借地権を買い取ることができれば、利回りも増し、土地に対する自由度も高まります。地主が借地権を買い取る場合であれば、金融機関からの融資を受けることもできるでしょう。

借地と底地を交換する

借地と底地の交換とは、借地権者が所有する借地権と地主が所有する底地を交換し、双方が土地の所有者となる方法です。

借地権と底地を交換することで、借地権者と地主が二つに分筆した土地それぞれの完全な所有者となることができます。

借地と底地を交換するタイミングとしては、借地権者が建物の建て替えを行う時が多いです。双方にとってもお金をかけずに権利を整理できるため両者にメリットが生じます。またこのような底地や借地権が設定されていない完全所有権の土地は、売却時に売りやすく値段も高くつきやすいです。

資産管理会社に移す

最後の方法は資産管理会社を立ち上げて、底地を会社に売却するという方法です。

まず、相続人である子どもたちが株主となる形で会社を立ち上げます。次に、その会社に実勢価格といえる更地価格の10~15%の価格で底地を売却します。
低廉譲渡に該当しない実勢価格での売却であれば、買主側の資産管理会社に受贈益が発生することも基本的にはありません。
資産管理会社にお金がない場合は、売り主から長期借入金をして事実上の分割払いの形の売買契約をし、地代から返済を行うことも出来ます。

これらをすることで、不動産を手放さないままに相続税評価額ばかりが高い底地を個人から切り離すことができます。また、個人の所得税が高い場合は、相続税対策と同時に毎年支払う所得税の節税対策もできます。さらに子どもたちに資産管理会社から給与を支払うことで、相続人への金融資産の移転が実現し、相続税の納税資金の準備をすることもできます。

まとめ

本来、底地は時間を味方につけて取り組むことができれば、本質的には優良な資産です。

なぜならばアパートなどの賃貸経営よりも滞納リスクが少なく管理もとても楽な上に、承諾料をはじめとしてたまに大化けすることがあるからです。

しかし、資産に占める底地の割合が多い場合は、相続税負担が重いため時間を味方につけて運用することができません。結果、利回りが低く、相続税や固定資産税ばかりが重いリスクばかりが大きいものになってしまいます。

ですので、底地を多く持つ地主は上述のような方法で、底地を切り離す必要があります。
そうすることで、時間を味方につけ、しっかりと資産を守ることができるのです。

資産以上に大切なご家族に同じ苦労をさせないためにも、今しっかりと相続対策をしておく必要があります。
ぜひみなと相続コンシェルにご相談ください。

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