相続税申告ガイド
低金利時代が長く続いていることもあり、相続財産においても投資信託が増えています。
今回は投資信託の相続税評価額の計算方法と、相続税申告書の記載方法についてご説明します。
目次
まず保有している投資信託が、以下の4種類のうちどれなのかを確認しましょう。
①MRF(マネー・リザーブ・ファンド) ②外貨建MMF ③一般的な投資信託 ④上場投資信託(ETF・REIT)
もし、どれに該当するかわからない場合は金融機関に問い合わせましょう。種類がわかればあとは、それぞれに決まった計算をするだけです。
簡単に言いますと、①〜③の投資信託は、「相続発生時に売却したら手取りいくらになるか」という考え方での計算となり、④だけは、売却した時のコストを考えず上場株式と同じ方法での計算となります。
それでは、それぞれの方法について解説していきます。
MRFの評価方法は、「(基準単価)×(口数)+(未収分配金)-(未収分配金に対する源泉所得税など)」となります。
表にすると以下のとおりです。
MRFの基準単価は1口1円です。そして、超低金利時代の現在は未収分配金がほぼありませんし、その結果それに対する税金もほぼありません。ですので、実務上は証券会社等の残高証明書に記載されている「口数」をそのまま「相続税評価額」と考えていただいても通常は問題ありません。
しかし、非常に大きな額がMRFに置かれている場合や、将来金利が上がった場合には、未収分配金とその税金に対する計算が必要になる場合があります。その場合は上記の式にあてはめて計算をしてください。
ただ、その場合であっても、MRFは日々決済型投信であるため未収分配金はせいぜい数十円であり、それに対する源泉所得税についても数円です。
外貨建MMFの評価方法は、「(基準単価)×(口数)×(売却時為替レート)-(譲渡益税)+(未収分配金)-(未収分配金に対する源泉所得税など)」となります。
表にすると以下のとおりです。
売却時の為替レートは金融機関によって異なりますので、預けている金融機関のルールを確認しましょう。
次に、含み益がある場合は譲渡益税分を控除します。実際には売っていないにもかかわらず、「相続発生時に売却したら手取りいくらになるか」という考えで、発生しうる譲渡益に対する源泉所得税および住民税を計算し控除します。なお、譲渡損益の計算は銘柄ごとに行えばよく、銘柄や金融機関をまたいで損益通算を考慮する必要はありません。
そして最後に未収分配金に関する計算をして終わりになります。未収分配金については、MRFと違い外貨建MMFは毎月決済型であり、利回りも比較的高いため必ず計算が必要です。
一般的な投資信託の評価方法は「((基準価格)-(解約コスト))×(口数)÷10,000-(譲渡益税))となります。
相続発生日の基準価格は、Yahoo!ファイナンスなどのサイトで簡単に確認できます。
亡くなった日が休日で基準価格がない場合は、相続発生「前」の一番近い日の基準価格を使用します。
次に、解約時に信託財産留保額や中途解約手数料というコストが必要な投資信託の場合はそれを控除します。これらのコストがかかるかどうかは、目論見書を見ることで確認できます。
そして、含み益がある場合は相続発生時に売却したと仮定した時に計算される譲渡益税を控除します。外貨建MMF同様、譲渡益の計算は投資信託ごと個別に行えばよく損益通算の考えは不要です。また相続評価には引継いだ被相続人の取得価額は必要ありません。
上場投資信託(ETF/REIT)の評価方法はシンプルで「(基準価格)×(口数)」となります。
上場投資信託は「投資信託」という名前はついていますが、売買手法は上場株式と全く同じであり、評価方法も上場株式と同じになります。
そのため、上記の他の投信と違い、「相続発生時に売却したら手取りいくらになるか」という考え方はしません。
株価は、上場株式と同じく以下の中から最も安くなるものを使ってよいことになっています。
① 相続発生日の終値
② 相続発生月の終値の平均額
③ 相続発生前月の終値の平均額
④ 相続発生前々月の終値の平均額
終値は4桁の証券コードを用いてYahoo!ファイナンス等で確認することができますので、電卓やエクセルを使うことで平均額も簡単に出すことが可能です。
小数点以下の数値を切捨して、株数をかければ評価額になります。
尚、休日なので相続発生日に価格がない場合は、「最も近い日」の終値を採用します。相続発生日が連休のちょうど中日であって、「最も近い日」の終値が休日前と休日後に二つある場合はそれらの平均値になります。
ここまで説明してきましたとおり、投資信託の評価方法のルール自体はさほど難しいものではありませんが、銘柄数が多いと信託財産留保額や譲渡益税の控除を一つひとつ計算するところにどうしても手間がかかります。
ご自身で計算する時はもちろんですが、中には税理士であってもそれを面倒くさがって、勝手に省略してしまう人がいます。確かにこれを省略しても、実際には相続税の総額は大きく変わらないでしょうし、相続税を多く納める分には税務署も何も言わないでしょう。
ですがこれは大切な財産を引き継ぐという意味でも、正確な相続税申告書を作るという意味においても、とんでもないことです。是非面倒くさがらずにきちんと計算しましょう。
その上で、一つポイントなのですが、信託財産留保額や譲渡益税などを控除した場合は、どのような計算式を行ったかメモに残して必ず申告書に添付するようにしましょう。
なぜならば、相続税申告書の中で投資信託は相続財産のすべてを列記するべき第11表に記載するのですが、そこには「単価」「数量」「評価額」の入力マスしかないのです。
つまり、信託財産留保額や譲渡益税を控除した場合は、「単価」と「数量」を単純にかけただけでは「評価額」にならなくて当然なのですが、客観的に第11表「だけ」を見ると申告書の作成ミスのように思われてしまうことがあるのです。
ですので、どのような計算式で相続時点での評価をおこなったかがわかる資料を作成し相続税申告書に添付するようにしましょう。メモの様式については、不動産や同族株式のように決まった様式がありませんので自由です。
さて、いよいよ最後に相続税申告書の具体的な記載方法のご説明です。
ここでは、自分で相続税申告書が作成できる完全無料クラウドソフト「AI相続」の入力方法を通してご説明いたします。
「AI相続」を利用することで、通常どこに何を書けばいいのかわかりにくい相続税申告書を誰でも簡単に作成することができます。
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まず、MRFの入力方法ですが、これは非常に簡単です。
AI相続ログイン後、「②財産の入力」のページで「有価証券」を選択します。
上記のように、まず有価証券の種類で「証券投資信託の受益証券」を選択し、それぞれのマスを入力していってください。
数量のマスは、口数をそのまま入力すればOKです。
減額金額のマスは、マネーリザーブファンドの残高に譲渡益税や信託財産留保額がかかることはないので空欄のままで結構です。
未収分配金がある場合は、別途未収分配金の入力をしますがMRFの場合はほとんどありませんのでその入力方法については外貨建MMFのところでご説明します。
次に、外貨建MMFの入力方法です。
AI相続ログイン後、「②財産の入力」のページで「有価証券」を選択します。
上記のように、まず有価証券の種類で「証券投資信託の受益証券」を選択し、それぞれのマスを入力していってください。
単価のマスは、相続発生時点の売却時適用為替を入力してください。
数量のマスは、口数をそのまま入力すればOKです。
そして含み益がある場合は、予想される譲渡益税を計算し減額金額のマスにその数値を入力します。含み損の場合は空欄のままでOKです。
次に、外貨の場合は、別画面で未収分配金の入力を忘れないようにしましょう。
未収分配金は「②財産の入力」のページで「その他財産」を選択します。
財産の種類で「その他」を選択し、「財産の名称」と「住所」のマスをわかるように入力します。
そして、評価額のマスに予め日割り計算しておいた未収分配金を入力すれば完成です。
その他のマスは空欄のままで構いません。
一般的な投資信託も同じように、「②財産の入力」のページで「有価証券」を選択します。
上記のように、まず有価証券の種類で「証券投資信託の受益証券」を選択し、それぞれのマスを入力していってください。単価のマスと数量のマスは、相続発生日の単価・数量をそのまま入力します。
そして、信託財産留保額や譲渡益などの控除できる金額がある場合は、減額金額欄のマスにその額を入力すれば完成です。
最後に、上場投資信託の入力方法も「②財産の入力」のページで「有価証券」を選択します。
上記のように、「受益証券の詳細」で上場投資信託を選びますと自動で必要な入力マスが出てきますので、名称と金融機関名などを記入してください。
尚、配当の権利落ち後、配当が届くまでに相続が発生している場合は、未収分配金と同様のやり方で配当期待権を別途入力しましょう。
投資信託の評価方法と相続税申告書の記載方法は以上となります。
しかし、投資信託は株式と同様、値動きをするものですので、相続税申告とは別にできるだけ早く今後の方針を決めることが重要です。
引き継いだ投資信託が何を投資対象にしている物かを把握し、これまでの値動きを検証したうえで、「継続保有」するべきなのか、「買い替え」や「売却」をするべきなのかを検討しましょう。ただ、何も考えずに預けている金融機関に相談に行ってしまうと、手数料目的でとにかく買換えを提案されることが多いので注意が必要です。
引き継いだ大切な資産ですから、やみくもに売買するのではなくきちんと考えて運用していきたいものです。
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監査法人トーマツ、独立系コンサルティング会社で業務の経験を積み、2013年に相続税専門税理士として独立。相続において大切なことを伝えるべく「笑って、学んで、健康に」をモットーに、社会人落語家「参遊亭英遊」としても活躍。高座に上がる回数は年間80回超。著書に『知識ゼロでもわかるように 相続についてざっくり教えてください』(総合法令出版)がある。 HP:埼玉・大宮あんしん相続税相談室