相続専門コラム
「NISA口座を持っていた親が亡くなった場合、口座内の資産はそのまま非課税で相続できる?」
結論から言うと、NISA口座内の株式や投資信託は相続できます。ただし、NISAの非課税措置を維持したまま相続人口座に資産を移すことはできません。
本記事では、NISA口座の相続に関する取扱いや注意点を解説します。「高齢の親が新NISA口座を開設したようだけど、相続はどうなるの?」と不安のある人は、参考にしてください。
目次
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NISAとは、口座内で保有している株や投資信託の収益に対する所得税・住民税が非課税になる少額投資非課税制度です。
被相続人がNISA口座で運用していた株や投資信託を相続する場合、相続発生日までの収益は非課税になりますが、一方で相続税に帯する非課税措置はありません。そのため、NISA口座の株や投資信託は相続財産として相続税の対象になります。
NISA口座の所得税・住民税非課税措置を受けられるのは、口座名義人である被相続人に限定されます。相続人がNISA口座を持っていても、NISAの非課税措置そのものを引き継ぐことはできません。
NISA口座における相続のポイントを3つに分けて解説します。
被相続人が保有していたNISA口座内の株や投資信託は相続の対象です。ただし、相続人のNISA口座に対象の株や投資信託を移管することはできません。
相続が発生すると、相続人は金融機関に「非課税口座開設者死亡届出書」を提出し、相続の手続きを進める必要があります。手続き後、被相続人が保有していたNISAの株や投資信託は、相続人の特定口座または一般口座に移管されます。
この「特定口座」や「一般口座」とは、NISA口座ではない通常の課税口座を指します。名前のとおり、課税口座への移管後に発生した収益については課税対象です。
被相続人が保有していたNISA口座内の株や投資信託は、死亡日(相続発生日)に相続人が取得したものとして扱われます。このとき、死亡日時点で発生している含み益部分は非課税になるものの、死亡日以降の収益は相続人の所得として課税対象になります。
したがって相続人は、NISA口座の相続で2つの課税に気を付けなければなりません。
【相続人に発生する課税】
たとえば、被相続人がNISA口座で保有していたA株の購入時価格が100万円(一株1万円×100株)だとします。相続発生日のA株価格が130万円(一株1万3,000円×100株)になっている場合、相続発生日時点の含み益30万円については課税されません。
ただし、非課税措置は相続発生日までとなるため、相続発生日以降の収益は課税対象になります。このとき、相続人がA株を相続した日が取得日として計算されます。相続発生日時点で130万円だったA株が3か月後に150万円になると、20万円の含み益部分が課税対象になります。
相続発生日以降に発生する配当金や分配金も課税対象です。故人の配当金についてはこちらの記事でも解説しているため、参考にしてください。
NISA口座内の株式や投資信託の相続税評価方法は通常の課税口座と同様です。
上場株式・投資信託に分けて解説します。
上場株式の相続税評価額は、下記の金額のうちもっとも低い金額を採用して評価することが可能です。
上場株式の相続税評価方法の詳細はこちらの記事で詳しく解説しているため、あわせて参考にしてください。
一般的な投資信託(公募株式投資信託)の相続税評価額は下記のとおりです。
※解約コストとは:信託財産留保額や中途解約手数料など。これらのコストがない投資信託もある
一般的な投資信託の基準価額は、通常1万口当たりの価格で表示されています。そのため、口数を掛けた後に1万で割る必要があります。投資信託の相続税評価方法について、詳細はこちらの記事で解説しているため、あわせて参考にしてください。
NISA口座の株式や投資信託を相続する際は、相続発生日以降の収益に対する課税に注意が必要です。
特に気を付けたいのは、相続発生時点で株や投資信託が大きく値下がりしているケースです。通常の口座と比較して見てみましょう。
被相続人が生前購入していたB株が、相続発生日に運悪く値下がりしていたとします。
相続対象のB株がNISA口座内にあるのか、また特定口座にあるのかによって、相続後の課税額に大きな違いが出ます。
通常の特定口座内の株を相続する場合、B株の取得日と取得価額は被相続人のものを引き継ぎます。そのため、B株の取得日は20年1月、取得価額は一株1万円として取り扱うため、売却時に課税対象になるのは60万円の含み益部分です。
含み益にかかる所得税・住民税率は約20%のため、60万円×20%=約12万円が課税される計算です※。
※「源泉徴収あり・特定口座」利用時の場合。株の含み益にかかる税金は相続人の口座種別や他の所得によって異なる
一方、NISA口座内の株を相続する場合、B株の取得日は「相続発生日」取得価額は「相続発生日の終値」を引き継ぎます。B株取得日は24年10月、取得価額は値下がり時の一株7,000円として取り扱うため、売却時に課税対象になるのは150万円の含み益部分です。
この場合、含み益にかかる所得税・住民税として、150万円×20%=約30万円 が課税される計算です※。特定口座と同じタイミングで相続・売却していても、課税額は大きく異なります。
※「源泉徴収あり・特定口座」利用時の場合。株の含み益にかかる税金は相続人の口座種別や他の所得によって異なる
NISA口座の相続発生日に株や投資信託が大きく値下がりしていると、その後の課税額は特定口座よりも大きくなる可能性があります。しかし、NISA口座では通常の特定口座であれば使える損益通算や損失の繰越控除などを利用できません。
運悪く値下がり時にNISAの株や投資信託を相続してしまっても、残念ながら相続人に対する救済措置はありません。値動きが大きい銘柄をNISAで多数保有している人は、相続に備えて少しずつ値動きが安定した資産に移し替えるなどの対策が必要です。
NISA口座の相続財産が相続税の基礎控除額を上回る場合、相続税申告が必要です。
相続税申告の際は、株式や投資信託の相続税申告で使われる相続税申告書第11表を活用します。第11表の様式は令和6年1月に改訂され、以前は1枚の申告書だったものが5枚の表に分割されました。
NISA口座の相続財産が株式と投資信託の場合は、第11表(合計表)と第11表の付表2(有価証券用)を使用してください。
詳細はこちらの記事で解説しているので、参考にしながら書き進めてください。
京都市在住。 金融代理店にて10年勤務したのち、2018年よりフリーライターとして独立。 金融・不動産・ビジネス領域の取材・執筆を中心に活動中。