相続専門コラム

営業権(のれん)も課税対象?老舗や人気事業を引き継ぐ際の相続税評価方法

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老舗店の事業を引き継ぐと、店舗や製品の在庫に加えて「お店のノウハウやブランド価値」も相続の対象になることをご存じでしょうか。

これは「営業権(のれん)」と呼ばれる無形資産で、相続の際に課税対象となるため注意が必要です。本記事では事業承継で発生する営業権(のれん)とは何か、具体的な事例と相続税評価の方法、評価対象外になるケースを解説します。

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事業承継で注意したい「営業権(のれん)」とは

「営業権(のれん)」とは、事業そのものが持つ目に見えない価値を指します。元々は企業買収などのM&Aにおいて、対象企業の持つ無形資産を会計基準で評価するために生まれた概念です。

たとえば、相続で下記のような事業を引き継ぐとします。

  • 数百年も続いてきた歴史がある老舗の和菓子屋
  • 常に行列ができ、テレビや雑誌でもよく取り上げられる地元の人気ラーメン店
  • 地方で複数店舗を営業する地域密着型のスーパーマーケット

このように、すでに名のある老舗や人気店を相続すると、ネームバリューや顧客基盤、独自のノウハウや技術などもあわせて承継できます。ゼロベースで起業する場合と比べて、商売上の優位性があるのは明らかに前者です。M&Aにおいては、こうした営業権(のれん)を企業の「潜在的な価値」や「超過収益を生み出す力」と呼ぶこともあります。

なお、会社法施行前(2006年5月以前)は「営業権」という言葉が使われていましたが、現在は会計上の用語として「のれん」として使われることが一般的です。当記事では営業権(のれん)として記載します。

営業権(のれん)が生じる事業例

では、どのような事業で営業権(のれん)が発生するのでしょうか。具体的には、下記の要素を持つ事業で発生します。

  • 社会的信用・ブランド力:長年の事業で培われた信頼やネームバリュー
  • 技術力・ノウハウ:独自の生産技術や特許、研究開発力、蓄積された専門知識
  • 立地条件:競合優位性のある場所(駅前の一等地など)にある店舗や事務所
  • 優秀な人材:経験豊富な経営陣と熟練の従業員
  • 顧客基盤:リピーターなど優良な顧客リスト
  • 取引関係:安定した仕入先や競合優位性のある販売ルート

たとえば、地元で名のある創業150年の和菓子屋は「社会的信用・ブランド力」があります。長い営業の中で安定した仕入れ先や既存顧客、熟練の従業員を抱えているため、「顧客基盤」「取引関係」「優秀な人材」においても営業権(のれん)があると言えるでしょう。

営業権(のれん)は相続税の対象

経営者の相続によって事業承継する際は、事業に付随する営業権(のれん)も相続人(後継者)に引き継がれます。経営者が変わっても、営業権(のれん)の持つ財産価値は変わりません。よって、相続財産に含める必要があります。

営業権(のれん)の相続税評価方法

営業権(のれん)の相続税評価額は、下記の手順によって算出します。

  1. 「平均利益金額」 × 0.5 - 「標準企業者報酬額」 – 「総資産価額」 × 0.05 = 「超過利益金額」
  2. 「超過利益金額」 × 「営業権の持続年数(原則10年)に応ずる基準年利率による複利年金原価率」=営業権(のれん)の価額

参考:国税庁 財産評価基本通達 165・166より

それぞれの金額の求め方については、下記で1つずつ解説します。

平均利益金額の求め方

下記のいずれか低いほうの金額を「平均利益金額」として採用します。

  • 過去3年間(亡くなる年の前年より3年間)の事業所得の平均額
  • 直近(亡くなる年の前年)の事業所得金額

法人であれば、「亡くなる年の直前期末以前の3年間」の事業所得が対象です。

ただし、下記のものはなかったものとして所得から除外し、再計算してください。

  • 災害による臨時損失など「非経常的な損益」
  • 借入金等の「支払利子」や「社債の償却費」など
  • 家族・親族の従業員に支払った「青色事業専従者給与額」または「事業専従者控除額」、法人であれば損金算入された「役員給与の額」

標準企業者報酬額の求め方

「標準企業者報酬額」は、先ほど計算した平均利益金額を下記の区分表に当てはめて計算します。

平均利益金額標準企業者報酬額
5億円超平均利益金額 × 0.05 + 7,500万円
3億円超5億円以下平均利益金額 × 0.1 + 5,000万円
1億円超3億円以下平均利益金額 × 0.2 + 2,000万円
1億円以下平均利益金額 × 0.3 + 1,000万円

なお、平均利益金額が5,000万円以下だと、いずれ「超過利益金額」がマイナスになり、営業権(のれん)相続税評価額はゼロになります。この場合、相続財産に含める必要はありません。

詳細は「営業権(のれん)が評価対象外になる3つのケース」で後述します。

総資産価額の求め方

「総資産価額」とは、会社(事業)が持っているすべての資産の評価額の合計を指します。相続や贈与があった日時点での総資産の評価額合計を計算してください。

法人の場合は、相続や贈与の直前の決算期末時点の総資産評価額の合計とします。

営業権の持続年数に応ずる基準年利率による複利年金原価率の求め方

「平均利益金額」 「標準企業者報酬額」 「総資産価額」 を求めたら、 先ほどの計算式に当てはめて「超過利益金額」を求めます。

  • 「平均利益金額」 × 0.5 - 「標準企業者報酬額」 – 「総資産価額」 × 0.05 = 「超過利益金額」

この「超過利益金額」に、「営業権の持続年数(原則10年)に応ずる基準年利率による複利年金現価率」を掛けることで営業権(のれん)を計算できます。これは、営業権の将来利益を現在の価値に割り引いて評価するための係数を掛けるということです。

超過利益金額に掛ける係数は、国税庁のサイトで公表されている「基準年利率」と「複利表」で確認できます。たとえば、2025年1月分の基準年利率と複利表は下記のリンク先で確認できます。

【基準年利率】

営業権の持続年数である「原則10年」に応じる「長期」「7年以上」の箇所を見ると、「1.50」となっています。これが基準年利率です。

【複利年金現価率】

「複利表」のPDFファイルを確認して、「長期」「10年」の「年1.5%の複利年金現価率」の箇所を見ると、「9.222」となっています。これが複利年金現価率です。

これらの係数は毎年変わるため、必ず相続税評価を行う時期国税庁サイトを確認して適用してください。

営業権(のれん)が評価対象外になる3つのケース

下記3つのケースでは、営業権(のれん)は相続税の評価対象外から除外されます。

その1.医師や弁護士などの専門職

医師や弁護士など、その者の技術や手腕、才能に強く依存している事業は相続税評価の対象外です(財産評価基本通達165)。

これは、営業権(のれん)が被相続人(前の経営者)の能力に直接紐付いており、相続で経営者が変われば、その効果も消滅すると考えられるからです。よって、相続によって承継した事業で以前のような収益力が一切期待できない場合、その営業権(のれん)は財産に加える必要はありません。

その2.平均利益金額が5,000万円以下の場合

先述したとおり、事業の平均利益金額が5,000万円以下だと、相続税評価を計算しても評価額はゼロになります。

まず、平均利益金額が5,000万円だと、標準企業者報酬額は5,000万円 × 0.3 + 1,000万円=2,500万円。これは「平均利益金額×0.5」の2,500万円と同じのため、計算途中で超過利益金額がマイナスになってしまいます。

  • 超過利益金額=平均利益金額5000万円 × 0.5-標準企業者報酬額2,500万円 – 総資産価額 × 0.05
  • つまり、超過利益金額=0 – 総資産価額 × 0.05 となる

これは、事業内容や市場状況の変化によって利益は大きく変動するもので、一定期間の利益だけで営業権(のれん)を評価することは不適切という考えがあるからです。

その3.営業権評価がマイナスの場合

のれんの相続税評価を計算した結果、評価額がマイナスなった場合も相続財産に加える必要はありません。ただし、マイナスであっても相続財産から控除はできない点に留意が必要です。

評価対象かどうかの判断ポイント

先述のとおり、営業権(のれん)の価値は相続によって表出するものではなく、被相続人の生前からあった無形の企業価値です。相続財産の評価対象かわからないときは、まず過去の財務諸表で「無形固定資産」として「のれん」の記載があるかどうかを確認してください。

過去に企業買収や事業譲渡などを行っている際は、対象となった事業の財務諸表を探し、「無形固定資産 のれん」の記載がないか確認してみてください。

資料がないなどで判断が難しい場合は、税理士や税務署に問合せてみてください。相談の際は、過去数年分の売上や事業の状況がわかる資料があると話がスムーズです。

営業権の相続税申告は評価明細書が必要

営業権(のれん)を相続財産に含めて相続税申告する際は、申告書の添付資料として「営業権の評価明細書」が必要です。

評価明細書は事業の所得金額や総資産価額など、本記事で紹介した金額を上から順に書いていけば、「営業権の価額」が算出できる構成になっています。下記の画像を参考に、調べた金額や係数を当てはめて評価額を算出してください。

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執筆者

服部 ゆい

京都市在住。 金融代理店にて10年勤務したのち、2018年よりフリーライターとして独立。 金融・不動産・ビジネス領域の取材・執筆を中心に活動中。

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