相続専門コラム
「公的年金を相続することはできるのだろうか?」「遺族年金にも相続税はかかるのかな?」こうした疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
本記事では、公的年金受給権の取り扱いから遺族に支給される公的年金の種類、受給するために必要な手続きについて分かりやすく解説します。
本記事を最後まで読むことで、公的年金を適切に相続するために必要な知識を得ることができます。もし、取り扱いが異なる「私的年金」に関してもご関心がありましたら、こちらの記事もご覧ください。
目次
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結論から申し上げますと、公的年金の受給権は相続できません。
国民年金等は一身専属権であり、公的年金の受給権(=年金を受け取る権利)は受給者本人のみに帰属するため、相続の対象外となります。受給者が死亡した時点で年金受給権が発生していた場合でも、残念ながら遺族がその受給権を引き継ぐことはできません。
ただし、公的年金を受け取る権利(受給権)は相続の対象外ですが、亡くなった方に支給予定であった未支給の年金(未支給年金)があった場合には、一定範囲の遺族が請求することができます。
また、年金の被保険者が亡くなった際、遺族に支給される年金(遺族年金)もあり、これを請求できる場合があります。それぞれ、以下で詳しく解説します。
公的年金の種類と課税有無
公的年金の種類 | 概要 | 相続税 | 所得税 |
---|---|---|---|
未支給年金 | 年金受給者が亡くなるまでに受け取れなかった年金 | 非課税 | 課税 |
遺族年金 | 年金加入者が亡くなった際に扶養されていた遺族が受給できる年金 | 非課税 | 非課税 |
寡婦年金 | 年金加入者が亡くなった際に所定の条件を満たす妻が受給できる年金 | 非課税 | 非課税 |
死亡一時金 | 特定の条件を満たす年金加入者が年金を受けることなく亡くなった場合、その方と生計を同一にしていた遺族に支給される給付金 | 非課税 | 非課税 |
上記の表で確認できるように、公的年金(国民年金や厚生年金など)に関して相続税は課税されません。ただし、被相続人が受給していた公的年金の未支給分は相続税の対象とはならず、受け取った遺族の一時所得として所得税の課税対象となります。
また、遺族年金や寡婦年金についても相続税・所得税ともに非課税とされています。より具体的に確認していきましょう。
「未支給年金」とは、年金受給者が亡くなるまでに受け取れなかった年金のことです。支給が翌月以降となるため、死亡時には必ず未支給年金が発生します。
未支給年金を受け取れるのは、亡くなった方と生計を同じくしていた(1)配偶者(2)子(3)父母(4)孫(5)祖父母(6)兄弟姉妹(7)その他3親等内の親族です。
年金受給者の死亡後に遺族が申請して支給が決定する場合、未支給年金は相続財産にはなりません(相続税は非課税)。これは、生計を共にしていた遺族が固有の権利として請求できるためです。
この事は最高裁の平成7年11月7日付の判決文の中で以下のように説明されています。
国民年金法一九条一項は、「年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかったものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であって、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができる。」と定め、同条五項は、「未支給の年金を受けるべき者の順位は、第一項に規定する順序による。」と定めている。右の規定は、相続とは別の立場から一定の遺族に対して未支給の年金給付の支給を認めたものであり、死亡した受給権者が有していた右年金給付に係る請求権が同条の規定を離れて別途相続の対象となるものでないことは明らかである。
出典:最高裁 | 平成7年11月7日判決・民集49巻9号2829頁
ただし、未支給年金は一時所得として課税対象となります。一時所得は以下の式で計算します。
一時所得の金額=総収入-経費-特別控除額(50万円)
遺族は保険料を支払っていないため経費は考慮せず、総収入から50万円の特別控除額のみを差し引きます。50万円超の未支給年金は、他の一時所得がなくても確定申告が必要です。一時所得の金額は2分の1に減額され、他の所得と合算して税額を計算します。
「遺族年金」は、年金加入者が亡くなった際、その方に扶養されていた遺族が受給できる制度です。遺族基礎年金と遺族厚生年金があり、いずれも相続税・所得税は非課税です。
亡くなった方が国民年金に加入しており、かつ、「子(18歳の誕生日が属する年度末まで、または20歳未満で1級もしくは2級の障害の状態にある未婚の子に限られる)」がいる場合、その方に生計を維持されていた「子」、あるいは「子のある配偶者」に遺族基礎年金が支給されます。
遺族基礎年金の受給条件
遺族の受給条件 | 亡くなった方の条件 |
---|---|
・亡くなった方に生計を維持されていた「子」あるいは「子のある配偶者」である | ・国民年金に加入していて、「子」がいる ・日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満 ・受給資格期間が25年以上ある |
亡くなった方が厚生年金に加入していた場合、一定の条件を満たした遺族に遺族厚生年金が支給されます。遺族基礎年金の受給要件も満たす場合、両方を併せて受給できます。ただし、子が死亡者の配偶者に扶養されている場合は遺族基礎年金が支給停止となります。
遺族厚生年金の受給条件
遺族の受給条件 | 亡くなった方の条件 |
---|---|
・亡くなった方に生計を維持されていた配偶者、子、父母、孫、祖父母 | ・厚生年金に加入している ・右記のうちいずれかの条件を満たす場合:(1)在職中に死亡した、(2)在職中に初診日のある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡した、(3)障害等級1級または2級に該当する、(4)受給資格期間が25年以上ある |
「寡婦年金」は、夫が死亡した際に、所定の条件を満たす妻に支給される年金制度です。
亡くなった方(夫)が国民年金に加入しており、かつ、「子」がいない場合、以下の条件を満たす妻に対してその妻が60歳から65歳になるまで「寡婦年金」が支給されます。
寡婦年金も遺族年金と同様に、相続税・所得税は課税されません。
寡婦年金の受給条件
遺族の受給条件 | 亡くなった方の条件 |
---|---|
・亡くなった夫の妻である ・10年以上継続して婚姻関係がある ・死亡当時その夫に生計を維持されていた ・妻が老齢基礎年金の繰上げ支給を受けていない | ・国民年金に加入していて、「子」がいない ・国民年金に加入していた期間が10年以上ある ・老齢基礎年金や障害基礎年金を受け取っていない |
「死亡一時金」は、 死亡日の前日時点で国民年金の第1号被保険者として保険料を3年以上納めた方が老齢基礎年金・障害基礎年金を受けることなく亡くなった場合、その方と生計を同一にしていた遺族に支給される給付金のことです。
亡くなった方が国民年金に加入しており、かつ、「子」がいない場合、一定の条件を満たすと「死亡一時金」が支給されます。なお、寡婦年金と死亡一時金は、両方の受給資格がある場合でも、いずれか一方を選択して受給することになります。
死亡一時金に関しても、所得税・相続税はかかりません。
死亡一時金の受給条件
遺族の受給条件 | 亡くなった方の条件 |
---|---|
・亡くなた方と一緒に生活していた(1)配偶者、(2)子、(3)父母、(4)孫、(5)祖父母、(6)兄弟姉妹(優先順位も左記と同じ) ・(1)〜(6)のいずれの方も遺族基礎年金を受けられない | ・国民年金に加入していて、「子」がいない ・保険料を納めた期間が3年以上ある ・老齢基礎年金、障害基礎年金のいずれも受けないままに亡くなった |
相続放棄した場合であっても、相続人は未支給年金や遺族年金を受け取ることができます。
これは、遺族年金が相続人固有の権利であり、相続財産とは別のものだからです。また、最高裁の判例で、未支給年金は相続財産ではないとの判断がなされています。そのため、相続放棄をしても未支給年金および遺族年金を受給することができます。
なお、寡婦年金や死亡一時金についても同様に、相続放棄をした場合でも受給することが可能です。
次に、年金受給者が亡くなった場合の手続きについて見ていきましょう。
年金受給者が亡くなった場合、年金事務所または街角の年金相談センターへ「年金受給権者死亡届(報告書)」を提出します。ただし、日本年金機構に個人番号(マイナンバー)が登録されている方については、原則として「年金受給権者死亡届(報告書)」の提出は不要です。
提出書類
必要書類 | 添付書類 |
---|---|
年金受給権者死亡届(報告書) | ・年金証書 ・死亡の事実を明らかにできる書類※ |
※右記のいずれかの書類:住民票除票、戸籍抄本、市区町村長に提出した死亡診断書(死体検案書等)のコピーまたは死亡届の記載事項証明書。
死亡した年金受給者と生計を共にしていた遺族は、未支給年金を請求できます。
年金事務所または街角の年金相談センターへ以下の書類を提出し、未支給年金を請求します。添付書類の詳細については、ねんきんダイヤルまたは年金事務所にお問い合わせすることをおすすめします。
提出書類
必要書類 | 添付書類 |
---|---|
未支給年金・未支払給付金請求書(複写帳票) | ・年金証書 ・続柄が確認できる書類(戸籍謄本または法定相続情報一覧図の写し等) ・生計を共にしていたことを証明する書類(亡くなった方の住民票の除票および請求する方の世帯全員の住民票の写し) ・金融機関の通帳 ・亡くなった方と請求する方が別世帯の場合は「生計同一関係に関する申立書」 |
遺族年金や寡婦年金、死亡一時金が受け取れる場合、その請求手続きを行いましょう。以下でそれぞれの年金について、手続き方法を詳しく解説します。
公的年金の受給要件と種類について簡潔にまとめた表が以下となります。
被相続人が国民年金のみ加入していた場合と厚生年金にも加入していた場合で要件等は変わります。詳しくは日本年金機構やお近くの市町村窓口にお問い合わせ下さい。
受け取れる年金の種類 | 主な受給要件 | 受給対象 |
---|---|---|
死亡一時金 | 保険料を3年以上納付かつ他の年金を受給しない場合 | 配偶者または遺族(※) |
寡婦年金 | 保険料を10年以上納付かつ65歳以上から受給 | 10年以上継続した婚姻者(事実婚可) |
遺族基礎年金 | 18歳未満の子を扶養 | 子のある配偶者または子 |
受け取れる年金の種類 | 主な受給要件 | 受給対象 |
---|---|---|
死亡一時金 | 保険料を3年以上納付かつ他の年金を受給しない場合 | 配偶者または遺族(※) |
遺族厚生年金 | 厚生年金加入中または一定条件を満たす | 配偶者または遺族(※) |
遺族基礎年金 | 18歳未満の子を扶養 | 子のある配偶者または子 |
※ここで言う遺族とは、亡くなった方と生計を同じくしていた(1)配偶者、(2)子、(3)父母、(4)孫、(5)祖父母、(6)兄弟姉妹(優先順位も左記と同じ)の事です。
遺族基礎年金の場合は、以下の書類を住所地の市区町村役場の窓口に提出します。ただし、死亡日が国民年金第3号被保険者期間中の場合、お近くの年金事務所または街角の年金相談センターに提出します。
提出書類
必要書類 | 添付書類 |
---|---|
年金請求書(国民年金遺族基礎年金) | ・基礎年金番号通知書または年金手帳等の基礎年金番号を証明する書類 ・戸籍謄本(記載事項証明書)または法定相続情報一覧図の写し※ ・世帯全員の住民票の写し※ ・死亡者の住民票の除票 ・請求者の収入に関する確認書類※ ・子の収入に関する確認書類※ ・市区町村長に提出した死亡診断書(死体検案書等)のコピーまたは死亡届の記載事項証明書 ・受取先金融機関の通帳等(本人名義) |
その他、添付書類として、第三者行為が死亡原因である場合に必要となる書類や状況によって必要となる書類があります。
遺族厚生年金の場合は、以下の書類を住所地の市区町村役場の窓口に提出します。お近くの年金事務所または街角の年金相談センターでも手続き可能です。
提出書類
必要書類 | 添付書類 |
---|---|
年金請求書(国民年金・厚生年金保険遺族給付) | ・基礎年金番号通知書または年金手帳等の基礎年金番号を証明する書類 ・戸籍謄本(記載事項証明書)または法定相続情報一覧図の写し※ ・世帯全員の住民票の写し※ ・死亡者の住民票の除票 ・請求者の収入に関する確認書類※ ・子の収入に関する確認書類※ ・市区町村長に提出した死亡診断書(死体検案書等)のコピーまたは死亡届の記載事項証明書 ・受取先金融機関の通帳等(本人名義) |
※マイナンバーを記入することで添付を省略可能です。
その他、添付書類として、第三者行為が死亡原因である場合に必要となる書類や状況によって必要となる書類があります。
寡婦年金の場合は、以下の書類を住所地の市区町村役場の窓口に提出します。お近くの年金事務所または街角の年金相談センターでも手続き可能です。
提出書類
必要書類 | 添付書類 |
---|---|
年金請求書(国民年金寡婦年金) | ・基礎年金番号通知書または年金手帳等の基礎年金番号を証明する書類 ・戸籍謄本(記載事項証明書)または法定相続情報一覧図の写し※ ・世帯全員の住民票の写し※ ・死亡者の住民票の除票 ・請求者の収入に関する確認書類※ ・受取先金融機関の通帳等(本人名義) ・年金証書 |
※マイナンバーを記入することで添付を省略可能です。
その他、添付書類として、第三者行為が死亡原因である場合に必要となる書類があります。
死亡一時金の場合、以下の書類を住所地の市区町村役場の窓口に提出します。お近くの年金事務所または街角の年金相談センターでも手続き可能です。
提出書類
必要書類 | 添付書類 |
---|---|
国民年金死亡一時金請求書 | ・基礎年金番号通知書または年金手帳等の基礎年金番号を証明する書類 ・戸籍謄本(記載事項証明書)または法定相続情報一覧図の写し※ ・世帯全員の住民票の写し※ ・死亡者の住民票の除票 ・受取先金融機関の通帳等(本人名義) |
※マイナンバーを記入することで添付を省略可能です。
公的年金の受給権(公的年金を受け取る権利)は相続できません。
ただし、未支給年金については、生計を共にしていた遺族が固有の権利として請求することができます。なお、未支給年金には相続税はかかりませんが、一時所得として所得税の課税対象となります。
また、遺族が受給できる公的年金として、遺族年金、寡婦年金、死亡一時金があります。これらは相続税・所得税ともに非課税となります。
受給者が亡くなった場合、必要書類を揃えて速やかに所定の場所へ提出しましょう。
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東京都在住。IT企業にて広報・マーケティング業務を7年間経験した後、Webデザインおよびプログラミング業務を経て、ライターとして独立。金融・IT・採用・ビジネス領域を中心に、SEO記事やインタビュー記事を執筆している。X:@Yamanami_Nami