相続専門コラム

相続税申告を自分でする方法と流れ~必要書類の書き方・手続き・税務調査の注意点

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「相続税の手続きは煩雑」「素人ではとても無理」と考えてはいませんか?しかし相続税申告はきちんと手順を踏めば、税理士に依頼しなくとも自分で行うことは可能です。

本章では、相続税申告手続きを税理士にまかせずに、自分で行う方法を解説していきます。相続税申告の流れや必要な書類の書き方、自分で申告を行う際の注意点など、さまざまなポイントを紹介していきます。

相続税申告をしなければいけない条件と対象となる人

相続税申告の対象となるのは、被相続人から遺産を相続した「相続人」と、遺言等により財産を受け取った「受遺者」です。

ただし、相続税には遺産の一部を課税対象とみなさない「基礎控除」があり、遺産総額のうち基礎控除額を超える部分が課税対象になります。つまり、遺産総額が基礎控除額以下であれば相続税が発生しないため、申告しなくともよいのです。

相続税の基礎控除額は、以下の計算式で算出できます。

相続税の基礎控除額
3,000万円+(法定相続人の数×600万円)

この式にあてはめると、法定相続人が1人の場合は基礎控除額は3,600万円、2人の場合は4,200万円、3人だと4,800万円になります。遺産総額がこの金額を下回っていれば、相続税の申告は不要です。

法定相続人数に対する基礎控除額
1人:3,600万円
2人:4,200万円
3人:4,800万円
4人:5,400万円

ただし、基礎控除額の計算では「養子は最大2人までしか法定相続人に含まれない」「相続放棄した人も法定相続人に含める」という例外がありますので、併せて確認しておきましょう。

相続税申告までの流れ

被相続人が死亡してから、相続税申告までの流れを把握しておきましょう。

相続発生後行うことポイント
1週間・市町村へ死亡届を提出
・取引金融機関へ連絡
2か月・相続人の確定
・相続財産・債務の評価を行う
・遺言書の確認(自宅、公証役場、法務局など)
・被相続人の生まれてから亡くなるまでの戸籍収集
・資産と債務のリストアップ
3か月・遺産継承の判断・3か月を過ぎると原則相続放棄できなくなるので注意
(期限延長の申し出が可能)
4~9か月・遺産分割協議・遺言書がある場合は、遺言書に基づき分割
・遺言書がない場合は、法定相続人全員で協議
・相続人で話がまとまらない場合は調停・審判を申し立てる
10か月・相続税の申告・納税・10か月を過ぎると、無申告加算税と延滞税が賦課される

自分で相続税申告をする方法~必要書類と書き方

自分で相続税申告をする方法〜必要書類と書き方イメージ

続いて、税理士に依頼せず自分で相続税申告を行う方法を確認していきます。

自分で相続税申告をする方法

  1. ①相続人を確定させる
  2. ②相続財産の評価を行い財産目録を作成する
  3. ③遺産分割協議を行い遺産分割協議書を作成する
  4. ④相続税申告書と手引き(相続税申告のしかた)を入手する
  5. ⑤遺産分割協議書と相続税申告書を作成する
  6. ⑥相続税の申告に必要な書類を揃える
  7. ⑦税務署に申告書を提出し納税する

①相続人を確定させる

まずは誰が遺産を相続するのか、戸籍や遺言を確認し、相続人を確定させます。相続人が1人の場合は、遺産分割協議を行わなくとも済むため手続きがスムーズに進みますが、多くのケースでは子供等を含めた複数人で相続することになるでしょう。

相続人が複数人になる場合は、相続税の申告作業も共同で進めることになり、相続人全員の合意が必要になります。

②相続財産の評価を行い、財産目録を作る

相続財産がどのくらいあるのか、遺産総額はいくらになるのかを評価するため、必要書類を集めて財産目録(遺産リスト)を作成します。財産目録は「相続財産に関するもの」と「債務に関するもの」に分けて作成しましょう。それぞれの作成に必要な書類は次項のとおりです。

相続財産で必要な書類

必要書類
不動産・登記簿謄本(全部事項証明書)
・固定資産税課税明細書
・公図及び地積測量図の写し
・住宅地図
・賃貸借契約書
有価証券・証券会社の残高証明書
・配当金の支払通知書
・非上場株式に係る書類
現預金・銀行・信用金庫等の残高証明書
・定期預金の経過利息計算書
・被相続人の過去6年及び相続開始後の通帳・定期預金の証書
・相続人の過去6年及び相続開始後の通帳・定期預金の証書
・手許預金
生命保険・生命保険金支払通知書
・生命保険権利評価額証明書
・保険契約関係のわかる書類
生前贈与・贈与税の申告書控
・贈与契約書
その他の財産・自動車:自動検査証のコピー
・死亡退職金:退職金の支払通知書または源泉徴収票
・電話加入権:加入本数
・ゴルフ会員権・リゾート会員権:預託金証書または証書のコピー
・貸付金・預け金・立替金:金銭消費貸借契約書・預金通帳・返済予定表等
・貴金属・書画骨董:写真・作品名・購入時期・購入金額等
・その他:金銭的な価値があるもの

債務財産で必要な書類

必要書類
債務・借入金:借入金残高証明書・返済予定表・金銭消費貸借契約書
・未納租税公課:住民税・固定資産税・事業税・高齢者医療保険料・介護保険料等の領収書
・その他の債務:賃貸借契約書・医療費・公共料金等の請求書・領収書・相続開始後の通帳のコピー
葬式費用・葬儀会社の領収書、請求書
・火葬場に係る費用の領収書
・お布施・戒名料・心付け:金額、支払日、支払先のわかる資料(領収書不要)
・納骨費用の領収書

③遺産分割協議を行い遺産分割協議書を作成する

相続人3名の遺産分割イメージ

上記のリストに沿って集めた書類をもとに財産目録を作成し、遺産総額を算出します。財産評価を終えたのち、相続人全員での遺産分割協議に臨みましょう。

遺産分割協議は、遺言書がある場合は、基本的に遺言書に基づいて行われます。ただし、相続人全員が同意すれば遺言書に従うことなく遺産分割をすることも可能です。
また、「長子にすべての遺産を譲る」というような他の相続人の権利を阻害する遺言は、なるべく公平に近親者に遺産を相続させようとする民法の考えに反するため、一定範囲の相続人には「遺留分」が認められており、たとえ遺言書があっても侵害されない決まりになっています。遺言書により相続人が定められている場合は、遺留分の侵害の有無についてもきちんと確認しておきましょう。

一方、故人の遺言書がない場合は、法定相続人全員で話し合って分割方法を決めることになります。どうしても条件等が折り合わない場合は、裁判所への調停・審判を申し立てることになります。

遺産分割協議が完了した後は、遺産分割協議書の作成作業に移ります。そして、遺産分割協議書が出来上がったら、いよいよ相続税申告書を作成です。

④相続税申告書と手引き(相続税申告のしかた)を入手する

まずは相続税申告書の作成するために、「相続税申告書」とその書き方の手引である「相続税申告のしかた」を入手しましょう。これらは近くの税務署でもらうか、国税庁のホームページからダウンロードすることができます。
尚、当社のAI相続サービスを利用すれば、相続税申告書を入手する必要はありません。無料で画面上で作成した申告書を印刷し、そのまま税務署へ提出できます。

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⑤相続税申告書を作成する

相続税申告書を作成するイメージ

相続税申告書は相続税の申告のしかた(令和5年分用)|国税庁の相続税の申告書の記載例 等を参考にして作成しましょう。記入項目に漏れがないよう、相続税の申告のためのチェックシート|国税庁でチェックしながら作成を進めるのがおすすめです。

⑥相続税の申告に必要な書類をそろえる

相続税の申告には、申告書の他にさまざまな書類が必要です。数も多くそろえるのに時間がかかる場合があるため、余裕をもって準備しましょう。

必要書類申請場所・ポイント
被相続人の戸籍謄本市町村役場・出生から死亡まで連続したもの
相続人全員の戸籍謄本本籍地である市町村役場・法定相続情報一覧図の写しでも可
相続人全員の住民票住所地である市町村役場・マイナンバーの記載されたもの
*法定相続人全員の印鑑証明住所地である市町村役場
*遺産分割協議書の写し

※上記は財産にかかわるもの以外の一般的な事例での添付書類になります。配偶者以外の親族が小規模宅地の特例を使う場合や相続時精算課税制度を利用していた場合は別の資料が必要になります。詳しくは別のコラムでご紹介します。

⑦税務署に申告書を提出し納税する

最後のステップは税務署への申告です。申告期限は被相続人が亡くなり、相続が開始されたことを知った日の翌日から10か月以内と定められています。その間に被相続人の住所地を所轄する税務署に、申告書を提出しなければなりません。

申告書類提出は、税務署への持参・郵送・e-Taxいずれの方法でも可能ですが、e-Taxでは相続人全員の個別認証が必要となる一方、提出する帳票数はほとんど減らないため郵送の方が無難です。

自分で持参する場合は、当該の税務署が空いている時間帯を事前に確認してから足を運ぶようにしましょう。

税務調査が入る率は高くない?

税務調査が入る率は高くない?イメージ

税務調査とは、相続税申告が正しく行われているかを調べるための、国税庁によるチェックのことです。そう聞くと“抜き打ち検査”のようなネガティブなイメージを受けるかもしれませんが、税務調査が入る確率は高くありません。平成28年度の相続税申告件数は136,891件でしたが、平成28年度に発生した相続を中心に行われた税務調査の対象となったのは12,463件であり全体に対する割合は約9.1%にとどまります

税務調査が入りやすくなる条件は、まずは申告する時期が定められた期限をオーバーしている場合です。相続税の申告期限は相続発生翌日から10か月以内で、その期限を過ぎてしまうと税務調査の対象になりやすくなります。

また、期限内に申告をしていたとしても、申告書類の記載ミスや漏れが見られるなど、一瞥して不備があるような場合にも注意が必要です。ミスがないよう書類作成を丁寧に行うことが大切です。

「税務調査の80%以上に追徴課税が発生する」は本当か?

税務調査が行われる時期は、申告をしてからすぐとは限りません。被相続人が亡くなって2年以上が経過してから、税務調査が入ったという例もあります。

そして、税理士事務所などの広告などでは「税務調査が入った場合、そのうち80%以上は追徴課税を取られている」といったように、必要以上に不安を煽文言が見受けられます。申告した後もしばらくは「税務調査がいつ来るか」とびくびくしなければならず、しかもいったん調査が入ると高確率で追徴課税…と心配になるかもしれませんが、それは本当なのでしょうか?

たしかに、平成30年に行われた税務調査件数12,463件のうち、追徴課税は10,684件と85.7%にのぼっています。ですが、この数値はあくまでも税務調査が入ったうちの85.7%であり、相続税申告の全体件数の割合からすると10%にも満たないものです。

基本的には、記載ミスのない正確な申告書を作成し、申告期限を守って申告を行えば税務調査が入ることはありません。

申告期限までに間に合わないときの対処方法

相続税申告には「被相続人が亡くなってから10か月以内」という期限があることは、繰り返し説明してきましたが、やむを得ずどうしても期限に間に合わないという場合もあるかもしれません。

正当な理由がある場合は、下記の対処方法で、ペナルティが猶予されることを覚えておくとよいでしょう。

・遺産分割協議が長引いている場合
相続人が複数いる場合、遺産分割協議がまとまらず、申告期限に間に合わないというケースは多く見られます。そのような場合は「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を税務署に提出し、相続人が法定相続分の通りに遺産を分けたという前提で、いったん申告をすることができます。その後遺産分割協議が終了した時点で、正しい金額を申告すれば問題ありません。また、調停が長引くなどして3年以内に遺産分割がまとまらない場合は、さらに「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」という書面を出す必要があります。

・遺産の調査に時間がかかり金額が確定しない場合
遺産総額の調査が難航して申告期限に間に合わない場合は、概算で税額を多めに設定して申告しておくこともできます。後日、遺産額がはっきりと確定した時点で、税金が不足していた場合は「修正申告」を、逆に多く払い過ぎていた場合は「更正の請求」を行うことで、税額を調整することができます。

相続税申告を自分でやるメリット

相続税申告を自分でやるメリットイメージ

相続税の申告を自分で行う最大のメリットは、税理士に支払う報酬費用が一切かからないことです。

税理士報酬は相続する遺産総額の0.5~1.0%程度が相場とされる向きがあり、仮に5,000万円の遺産を受け取る場合は報酬額が25万円~50万円、1億円になれば50万円~100万円を支払うことになります。申告手続きをすべて自分で行えば、これだけのまとまったお金が浮く計算になりますので、そのメリットは決して小さくないでしょう。

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相続税申告を自分でやる際の注意点

相続税の申告を自分でやる際の注意点には、以下のようなものが挙げられます。

<注意点>
・手続きが煩雑で難しい
・申告書類を正確に作れなかった場合は、税務調査の確率が高まる
・相続税を多く支払ってしまう可能性がある

申告の手続き自体が煩雑で大変だというのは、もちろんその通りです。確定申告や経費計算などの数字を使った作業が苦手、という方にとっては特に難しく感じられるでしょう。

また、申告書類を作成する際に、計算ミスや記入漏れなどの不備があった場合、税務調査を受けるリスクも考えられるほか、受けられる控除の手続きを知らなかった等の理由で、相続税を多く納め過ぎてしまうといったケースもあるでしょう。

相続税申告に詳しいプロに任せる選択も

相続税申告に詳しいプロに任せる選択もイメージ

「自分でやるのはやっぱり大変そう」「素人判断で進めて損をするのは嫌」と感じる方は、相続税申告に詳しい税理士に相談することも選択肢の一つです。

当社はシンプルな報酬体系と過剰過ぎないサービスをモットーとしています。“愛する家族を亡くされるという大変な時期に、相続の専門家として何かお役に立ちたい”、そんな思いでお手伝いさせていただきますので、お困りの際はぜひご相談ください。

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まとめ

インターネットなどで誰でも簡単に情報が得られるようになったことや、AIがサポートしてくれる無料サービスの登場により、「相続税申告はプロの税理士にすべてまかせるもの」といった考えも過去のものになりつつあります。

丁寧な情報収集やサポートの上手な活用ができれば、自分で相続税申告を行うことは不可能ではありません。相続税でお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。

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この記事の監修者

石倉 英樹(相続専門の公認会計士・税理士)

監査法人トーマツ、独立系コンサルティング会社で業務の経験を積み、2013年に相続税専門税理士として独立。相続において大切なことを伝えるべく「笑って、学んで、健康に」をモットーに、社会人落語家「参遊亭英遊」としても活躍。高座に上がる回数は年間80回超。著書に『知識ゼロでもわかるように 相続についてざっくり教えてください』(総合法令出版)がある。 HP:埼玉・大宮あんしん相続税相談室

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