相続専門コラム
農協(JA)の組合員になっていた場合は必ず出資金が存在します。そしてこの出資金は被相続人の相続財産として評価されるので注意が必要です。
コープの出資金と同じく出資金には毎年配当が出る場合があり、預金などより良い金利だったりします。相続財産として見ても大きな金額となる可能性があるので念の為調べておきましょう。
ここでは農協(JA)の出資金の調べ方と相続税評価について解説していきます。
目次
農業協同組合、農協(英名だとJapan Agricultural Cooperativesで略してJA)の略称で親しまれています。令和3年現在で正組合員数は402万人、准組合員は634万人。合わせて1,000万人以上の組合員を持つ、紛れもなく日本最大級の農業組合です。
農協(JA)では通常の株式会社と異なり皆で支え合う側面から組合員となる時には必ず出資金を出す必要があります。ちなみに組合員には農業従事者だけではなく一般の方も入ることが可能で、組合員になれば様々な特典を受けることが出来ます。
特徴については「農協(JA)の出資金の特徴」で詳しく解説しています。
そして、農協(JA)の出資金は相続税の対象です。
もし被相続人が農協(JA)の組合員であった場合は必ず出資金が存在する為、相続が発生した時は念の為にJAの出資金は調べておいたほうが良いでしょう。
農協(JA)の出資金を調べるプロセスとしては以下のとおりです。
まず書類を用意してから窓口で調査を依頼します。順番に見ていきましょう。
法定相続人である事を証明できる書類を窓口に提出し当事者である事を証明しなければ原則的に調査して貰えません。その為に必要となる主な書類は以下の通り。ですが連合会、またはケースによっては必要な書類が異なる場合もあるので事前に電話等で確認しておくほうが無難です。
被相続人の除籍の記載がある戸籍謄本等
被相続人が亡くなられたことを確認するための書類として、除籍の記載がある戸籍謄本が必要です。戸籍謄本は、市区町村の役所で発行できます。
死亡届の提出直後だと実は市役所にまだ情報が反映されていません。およそ1週間ほど経過後、住民票の除籍謄本の発行が可能となりますので、迅速に書類を収集される場合は期間だけご注意下さい。
→原戸籍と戸籍謄本の違いとは?相続に必要な範囲と取得方法
来店する人が相続人、遺言執行者、相続財産管理人であることが確認できる公的書類
亡くなった方の相続人であれば亡くなった方との関係を証明するための戸籍謄本や遺言書、その他の人は裁判所から正式に専任されていることを証明できる審判書謄本が必要です。
来店する人の本人確認書類
窓口へ行く人の本人確認書類として、運転免許証または健康保険証などの提示が求められます。
来店する人の実印および印鑑証明書
印鑑証明書は市役所で発行して貰えます。その印鑑登録されている実印と一緒に持っていきましょう。発行日から6ヶ月以内である必要があります。
書類が一式揃ったら、窓口に行きましょう。
注意点として、市区町村などでJAの管轄は分かれており、それぞれの管轄分の内容しか調べることが出来ません。
組合員だった痕跡を見つけられない、出資金の存在が不明、でもJA共済やJA建更などの保険に入っていた、などの場合は、それらの証書や通帳などである程度JAの支店名などを把握してから、利用していたと思しき窓口で確認すると良いでしょう。
窓口へ行く負担を考えた場合、どうせなら一度で手続きの全てを済ませてしまいたいと思いますが、農協にお勤めの方は相続のプロというわけではないのでこちらからお願いしないと相続に必要な全ての内容を教えてくれない場合があります(場所によっては案内してくれる事もある)。もしも見逃しがあった場合は再び出向かなければなりません。
なので、確認事項はこちらが把握しておき、窓口で申請しましょう。相続に関わる問題として見た場合に農協で確認しておくべきことは以下の通り。
これらが代表的です。被相続人の名義がないかどうか、まとめてJAの窓口に行った時に調べて欲しい事を伝えれば、被相続人名義の口座等が存在するか調査して頂けます。
出資金が存在することが判明したら、その場で残高証明書の発行を依頼しましょう。この残高証明書が相続税申告時に必要です。
出資金は場合によって非常に面倒くさい評価を行う必要があるのですが農協の場合は簡単です。
結論としては、農協(JA)の出資金は「払込済みの出資金額」による評価となります。
つまり、被相続人が農協に出資した金額がそのまま相続税評価とされます。これを知るためには「出資金残高証明書」を農協で発行してもらい、これを相続税評価額として記載します。
では、より具体的な理由について掘り下げていきましょう。
まず農協(JA)は協同組合です。その組織運営が非営利としており、その組合員および会員のために最大の奉仕をすることを目的としています。JAの公式サイトにて以下のように記載されています。
JAは株式会社ではなく、協同組合という種類の組織です。株式会社と協同組合の一番の違いは、協同組合はあくまで組合員の生活を守り向上させることが目的で、利潤の追求ではないこと。
JA(農業協同組合)とは
株式会社はたくさん株を持っている人が支配するけれども、協同組合は組合員1人につき1票。
150年以上前に誕生した協同組合の人間平等主義の伝統が息づいています。
この場合、財産評価基本通達195の定めに従います。一方で財産評価基本通達196は営利を目的として事業を行う事ができる組合等に適用されます。
これは質疑応答事例の「信用金庫等の出資の評価」の中で説明されています。
質疑応答事例「信用金庫等の出資の評価」より
国税庁|信用金庫等の出資の評価
財産評価基本通達195の定めは、農業協同組合のように、その組合の行う事業によって、その組合員及び会員のために最大の奉仕をすることを目的とし営利を目的として事業を行わない組合等に対する出資を評価するときに適用します。一方、同196の定めは、企業組合、漁業生産組合等のように、それ自体が1個の企業体として営利を目的として事業を行うことができる組合等に対する出資を評価するときに適用することとしています。
そして、財産評価基本通達195には以下のように記されています。
法令解釈通達「(農業協同組合等の出資の評価)」より
国税庁|(農業協同組合等の出資の評価)
195 農業協同組合等、196((企業組合等の出資の評価))の定めに該当しない組合等に対する出資の価額は、原則として、払込済出資金額によって評価する。
よって、払込済出資金額によって評価することになります。
ここまで相続に関する農協の出資金について述べましたが、改めて農協(JA)の出資金の特徴についておさらいしておきましょう。主に次のものが挙げられます。
農協(JA)自体が組合員の生活を守り向上させる事を目的とすると謳っているだけあって様々な特典を受けられる事が分かりますね。
ただし、出資金に関しての注意点もあります。では、1つずつ見ていきましょう。
農協(JA)には、農業従事者のみが対象の正組合員と、農業従事者でなくても対象となる准組合員という仕組みがあります。准組合員の方が正組合員よりも数が多いのもその為です。
つまり、農業を従事しているかどうかに関わらず農協(JA)を利用する機会があった方は准組合員として農協(JA)の組合員になっており、出資金を拠出している可能性があります。
なお、出資金の最低出資額や限度額は各連合会によって異なります。例えばJAならけんの場合だと1口1,000円で最大100口(10万円)が上限となりますが、JAこうかの場合は1口5,000円。最大1,000口(500万円)に上限が設定されており、連合会によって大きな差がある事が分かります。
更に出資金には毎年配当金が出る場合があり、この配当金の利率が約1〜4%である事から銀行の金利よりも格段に良いので出資金として多くの金額を入れている方もいらっしゃるようです。
一般の方と異なり、組合員だけに優遇される金利、ローンでもより低い金利が適用されます。更に振込手数料や貸金庫の手数料に関しても優遇されます。
農家以外でも利用することができるJA関連施設の割引が受けられたりすることもあります。施設はガソリンスタンドやAコープ、病院など多岐にわたりますが、連合会によって特典が異なります。利用したいと考えている農協でご確認下さい。
出資金は預金保険法の適用対象外となる為、破綻した際に1,000万円まで保護される、といったものがありません。あくまで性質として出資金である事を留意し、出資金の拠出を考えている場合は良く理解した上で検討されると良いでしょう。
相続税申告書が無料で作成できる「AI相続」なら、とうぜん農協(JA)の出資金の入力もカンタンです。
もし被相続人が組合員だった場合は以下の手順に従って入力を行って下さい。
AI相続にログインして「財産の入力」のページに移動します。
「財産の入力」画面にある項目の中の「有価証券」の右側にある編集ボタンをクリックします。
上記画像のような「有価証券」の画面が表示されます。「+追加する」ボタンをクリックしましょう。
すると、上記のような「有価証券」の詳細画面が表示されます。出資金の記載に必要な各項目を入力していきましょう。
有価証券の種類から「その他の出資」を選択します。
名称を入れます。例えば「JA◯◯ 出資金」などと記載します。
所属していた農協の郵便番号を記載します。
所属していた農協の住所を記載します。
「出資金残高証明書」で確認した出資額を記載します。
出資金の必要項目を入力し終えたら、①詳細画面の下側にある「受け取った人」の「取得財産の価額」を入力します。
入力が終わったら最後に②「保存して戻る」ボタンをクリックして終了します。
A.連合会によってマチマチ。所属のJA窓口へ問い合わせるべし
原則的に組合員の死亡は法定脱退扱いとなるので、名義変更は出来ず脱退手続きを取ることが多いです。ですが、中には名義変更に応じてくれる連合会もあるようなので問い合わせるのがベスト。
もし名義変更できる場合でも出資金は相続税の課税対象となり計上しなければなりません。ご注意を。
A.払込済出資金額がそのまま相続税評価額となる
払込済出資金額が相続税評価額となります。
被相続人が所属していたJA窓口で「出資金残高証明書」が発行して貰えるので、この用紙に記載されている残高を申告すれば問題ありません。
A.第11表の付表2「有価証券」の「その他の出資」に記載
出資金は「有価証券」の細目「その他の出資」に該当しますので第11表に記載しておきましょう。
第11表の記載方法について詳しくは以下の記事で解説しています。
→【記載例まとめ】第11表「相続税がかかる財産の合計表」の書き方
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監査法人トーマツ、独立系コンサルティング会社で業務の経験を積み、2013年に相続税専門税理士として独立。相続において大切なことを伝えるべく「笑って、学んで、健康に」をモットーに、社会人落語家「参遊亭英遊」としても活躍。高座に上がる回数は年間80回超。著書に『知識ゼロでもわかるように 相続についてざっくり教えてください』(総合法令出版)がある。 HP:埼玉・大宮あんしん相続税相談室