相続専門コラム
「私のケースは名義預金に当てはまるのかな?」「名義預金が見つかったけど、税務調査や追徴課税の対象にはなりたくない。何か対策はないのだろうか?」
そんなお悩みを抱える方に向けて、本記事では名義預金の相続税上の判断基準やペナルティ、その対策方法までを徹底的に解説します!
目次
名義預金とは、「口座の名義人」と「実質的な所有者」が異なる預金です。
具体的には、預金口座の名義は他人(多くの場合は家族)になっているものの、実際の資金の出所や管理、利用は別の人物(多くの場合は被相続人)が行っているような預金のことを指します。
名義預金とは、実質的な所有者が他人名義の口座でお金を管理している預金のことを指します。
口座の実質的な所有者が亡くなった場合、その口座内の資金は相続財産とみなされ、相続税の課税対象となります。つまり、相続税の課税対象となる相続財産になるかどうかは、財産の名義ではなく「真の所有者が誰であるか」によって判定されるということです。
例えば、孫名義の預金口座に祖母が10年間にわたり毎年100万円、合計1,000万円を入金したケースを考えてみましょう。
通常の生前贈与であれば、年間110万円以内の贈与は贈与税の対象外です。この場合、祖母から贈与された財産は孫のものとなります。また、祖母が亡くなった際に孫が相続人でなければ、直帰の贈与も含めこの1,000万円は相続税の対象にはなりません。
しかし、この口座が名義預金とみなされた場合、祖母の相続発生時に1,000万円全額が相続税の課税対象となってしまいます。
名義預金は、口座の名義人と実質的な所有者が異なるため、相続税の申告時に財産から漏れやすい項目となっています。
以下の表は、平成25年から29年までの相続財産申告漏れ項目別比率を示しています。現金・預貯金の申告漏れが多いことがお分かりいただけるでしょう。
税務調査では現預金の漏れを見つけるために、名義預金を重点的に調査します。税務署には被相続人や相続人の口座を照会する権限とKSKシステムがあるため、過去の資金の流れから不自然な点を特定できます。
預金の原資が被相続人から提供されていた場合、その預金は名義預金である可能性が高くなります。
例えば、被相続人の給与や事業収入が直接預金されていた場合や、被相続人が定期的に資金を提供していた証拠がある場合などが該当します。
名義人が贈与を受けた明確な認識があり、その事実を裏付ける証拠(例えば贈与契約書や贈与税の申告書)が存在する場合、それは名義預金ではなく正当な贈与として扱われる可能性が高くなります。
しかし、名義人に贈与の自覚がない場合や生前贈与の成立を示す具体的な証拠がない場合は、名義預金として判断される可能性が高まります。
被相続人が通帳や印鑑を管理していた場合、それは名義預金である可能性が高くなります。
また、口座の名義人が預金口座の存在を知らない場合や口座を開設した金融機関や口座の届出印に不自然な点がある場合も、名義預金の疑いが強まります。
預金から生じる収益を誰が受け取っていたのか、また、その収益が誰の所得として申告されていたのかは名義預金とみなされるかどうかの重要な判断基準となります。
被相続人が実質的に利益を得ていた場合、それは名義預金である可能性が高くなります。
例えば、預金利息が被相続人の所得として確定申告されていた場合や、預金を担保にした融資の利益が被相続人に帰属していた場合などは名義預金に該当します。
名義預金とみなされないようにするには、贈与契約を確実に成立させる必要があります。贈与契約は口頭でも成立しますが、贈与契約書を作成しておくことが望ましいでしょう。
これにより、財産を贈与する側と受け取る側の合意を客観的に証明できます。夫婦間で一方が稼いだお金をもう一方に贈与する場合も、贈与契約書を作成しておくと安心です。
贈与契約書の形式に厳密な決まりはありませんが、以下の5つの重要項目は必ず記載しましょう。
贈与契約書は手書きでもパソコンでも作成できます。ただし、署名と日付を手書きにすることで、契約書の信憑性が高まります。
さらに信憑性を高めるには、贈与者と受贈者の実印を押印し、可能であれば印鑑証明書を添付することが理想的です。
贈与税の申告は、税務調査の際に預金が正当な贈与財産であることを客観的に証明する手段となります。贈与税とは、年間110万円を超える贈与を受けた場合に課される税金です。毎年1月1日から12月31日までの期間に、贈与を受けた側が申告と納税を行います。
贈与税は、1年間の贈与総額から110万円を控除した額に対して課税されます。申告期限を過ぎると加算税や延滞税が課される可能性があるため、注意が必要です。
また、裏を返せば、110万円を超える贈与でなければ申告できないことにも留意しましょう。
名義人が預金口座からお金を引き出したり、利用したりできる状態であれば、贈与が成立したとみなされ、名義預金として指摘を受ける心配はなくなります。
そのため、名義人に通帳や印鑑を渡し、実際に預金を活用してもらうことが望ましいでしょう。
名義人自身の固有資産の存在は、口座が名義人の正当な所有物であることを示す有力な証拠となります。
例えば、預金口座内に名義人自身の独立した収入源がある場合、その預金は名義預金ではなく、名義人自身の正当な所有物であると認められる可能性が高くなります。
名義預金を含めずに相続税申告をした場合、過少申告加算税、無申告加算税、重加算税、延滞税などのペナルティが課される可能性があります。
これらのペナルティは、申告漏れの程度や意図的な隠蔽の有無によって異なります。
種類 | 条件(1) | 条件(2) |
---|---|---|
過少申告加算税 | 追加納付した税金の10%相当額 | 50万円よりも多い金額には、超えた部分の金額に15%相当額 |
無申告加算税 | 納付すべき税額に対して50万円までの部分は15% | 50万円を超える部分は20%の割合を乗じて計算した金額 |
重加算税 | 相続税の申告書を提出していたのに過少に申告していた場合には「重加算税(過少申告)」として原則35% | 申告書が提出されていない無申告の場合は「重加算税(無申告)」として原則40% |
延滞税 | 納期限の翌日から2か月以内の場合、年7.3%または延滞税特例基準割合プラス1%のいずれか低い割合 | 2か月を過ぎてしまうと、年14.6%または延滞税特例基準割合プラス7.3%のいずれか低い割合 |
過少申告加算税は、追加納付した税金の10%相当額が請求されます。
ただし、期限内に申告した納税額または50万円よりも多い金額には、超えた部分の金額に15%相当額が適用されます。自主的に修正申告をした際は、過少申告加算税はかかりません。
税務署から指摘される以前に、自主的に修正申告した場合はペナルティはありません。間違いに気付いたらできるだけ速やかに修正申告を行いましょう。
無申告加算税は原則として、納付すべき税額に対して50万円までの部分は15%、50万円を超える部分は20%の割合を乗じて計算した金額となります。
税務署から指摘される以前に、自主的に期限後申告をした場合は5%です。また、以下に該当する場合の加算税はありません。
財産を隠すなどの行為が「仮装隠蔽」と認定された場合は、重加算税を支払うことになるので注意しましょう。
相続税の申告書を提出していたのに過少に申告していた場合には「重加算税(過少申告)」として原則35%、申告書が提出されていない無申告の場合は「重加算税(無申告)」として原則40%が徴収されます。
延滞税は、法定納期限の翌日から納付する日までの日数によって割合が異なります。
納期限の翌日から2か月以内の場合、年7.3%または延滞税特例基準割合プラス1%のいずれか低い割合を支払います。2か月を過ぎてしまうと、年14.6%または延滞税特例基準割合プラス7.3%のいずれか低いほうとなり、延滞税が高額になります。
なお、延滞税は本税だけを対象として課されるものであり、加算税などに対しては課されません。
名義預金を含めずに相続税申告をした場合、もう一つ重要なペナルティとして、配偶者控除が適用できなくなる可能性があります。
配偶者控除は、被相続人の配偶者が相続や遺贈により財産を取得した場合、一定の金額まで相続税が課税されない制度です。配偶者の税額軽減とは、①1億6000万円と②法定相続分の財産のいずれか大きい金額までは配偶者が相続しても税金がかからない制度のことです。
この配偶者の税額軽減をうまく活用することで大きな税額メリットが得られますが、この制度の利用には一定の制限があります。その制限とは、「仮装・隠蔽した場合」はこの税額軽減が適用されないというものです。隠蔽が発覚するとこの配偶者控除が適用されなくなる可能性が高く、結果として相続税の負担が大幅に増加する恐れがあります。
名義預金には時効がありません。
贈与税には原則6年の時効期限がありますが、贈与が成立していない名義預金にはこの時効が適用されません。
相続税も原則5年で時効を迎えますが、納税が遅れるほど延滞税が増加します。そのため、名義預金が発覚した場合はできるだけ早く修正申告と納税を行うことが重要です。
名義人が自分名義の口座の存在を知っていても、通帳や印鑑、キャッシュカードを管理していない場合、贈与は成立していません。
生前に名義預金を解消するには、送金者の口座に資金を戻すのが最適です。送金時期が数年前であっても問題ありません。これは本来の状態に戻すだけなので、税務調査の対象にはなりません。一方、名義人が通帳や印鑑、キャッシュカードを自身で管理している場合、その預金は名義預金ではなく、名義人本人の財産となります。
贈与の成立日は、名義人が通帳や印鑑、キャッシュカードの管理を開始した日です。その日の口座残高が110万円の基礎控除を超える場合は、贈与税の申告が必要となります。
名義人が預金口座の存在を知らず、通帳や印鑑、キャッシュカードも受け取っていない場合、贈与は成立していません。この場合、その預金口座を解約し、送金者の口座に資金を戻すのが適切です。
一方、口座の預金を名義人の財産としたい場合は、通帳や印鑑、キャッシュカードを名義人に渡すことで贈与が成立します。
ただし、贈与額によっては、名義人が贈与税の申告と納付を行う必要があります。
預金は実質的な預金者の財産です。そのため、生前贈与が名義預金と判断されないようにするには贈与の成立を証明できることがポイントとなります。
以下の方法で対応すれば、贈与の証拠が残り、名義預金と判断される可能性は低くなるでしょう。
親が実質的な預金者であっても、子供が通帳、印鑑、キャッシュカードを自己管理し、自由に引き出せる状況なら、子供への贈与が成立したとみなされます。
贈与契約は口頭でも成立しますが、贈与契約書を作成し交わすことで、第三者にも贈与の事実を証明できます。
贈与には銀行振込を利用しましょう。これにより、送金者、受取人、日時、金額の記録が残ります。
口座の管理を受取人が実際に行っていたことを証明するには、受取人が日常的に使用している口座であることが最も説得力のある証拠となります。
新規に開設した口座で入金記録のみで引き出し履歴がないものよりも、日常的に使用している口座への振り込みの方が、贈与の事実をより強く裏付けることができます。
名義預金が見つかった場合、その口座から本人の口座にお金を移すことをお勧めします。本人の資金が本人名義の口座にあれば、名義預金の疑いを避けられます。
税務調査で名義預金であった口座の取引について質問を受けた場合は、「名義預金となっていたことに気づき、適切な状態に戻しました」と誠実に説明しましょう。
もう1つの方法は、贈与を行い、受贈者の所有となったことを示すために贈与の事実を記録に残すことです。非課税枠内の場合は、贈与契約書を作成しましょう。非課税枠を超える金額の場合は、贈与契約書の作成に加え、贈与税の申告と納付が必要です。
ただし、過去の日付で贈与契約書を作成することは避けるべきです。
例えば、子ども名義で100万円ずつ5回にわたって預金し、合計500万円になっている場合、過去の日付で100万円ずつの贈与契約書を5枚作成すれば良いと考えがちです。しかし、名義預金は脱税目的で使用されることがあるため、税務署は綿密な調査を行います。
名義預金を隠蔽する目的で契約書をまとめて作成したことが発覚すると悪質な行為とみなされ、加算税が課される可能性が高くなります。
口座名義人が名義預金を使用すると、贈与が成立します。
この場合、口座残高に応じて贈与税申告が必要となる可能性があるため、注意が必要です。受贈者が名義預金の存在を知った時点で口座残高が110万円を超えている場合、贈与税申告を行い、納税する義務が生じます。
贈与が成立していない場合、資金を贈与者の口座に戻しても贈与税は発生しません。
ただし、受贈者が預金口座から資金を引き出したり利用したりすると、贈与が成立したとみなされる可能性があるため、注意が必要です。
名義預金を解消する場合、贈与者の口座に資金を移してから解約すれば贈与税は発生しません。税務調査で質問を受けた際は、「名義預金を解消しました」と率直に説明するのが適切です。
名義預金は必ず申告しましょう。申告を怠ると後に税務署から指摘される可能性があり、追徴課税や重加算税などの厳しいペナルティを受けるリスクがあります。
名義預金と誤解されやすい贈与がある場合には適切な贈与契約書を作成し、贈与の事実やその意図を明確にしておくことが大切です。
これにより、税務調査が入った際に名義預金ではなく正当な贈与であることを証明しやすくなります。
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監査法人トーマツ、独立系コンサルティング会社で業務の経験を積み、2013年に相続税専門税理士として独立。相続において大切なことを伝えるべく「笑って、学んで、健康に」をモットーに、社会人落語家「参遊亭英遊」としても活躍。高座に上がる回数は年間80回超。著書に『知識ゼロでもわかるように 相続についてざっくり教えてください』(総合法令出版)がある。 HP:埼玉・大宮あんしん相続税相談室