相続専門コラム

かんぽ生命の死亡保険金支払明細は相続税申告に使えない?税理士が困るポイントと不正確な申告を防ぐ方法

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かんぽ生命で死亡保険金を受け取り、保険金支払明細を添付して税理士に相続税申告を依頼すると、「この書類だけでは申告手続きできません」と言われます。なぜなら、かんぽ生命の保険金支払明細には通常あるべき「死亡保険金受取人」や「死亡保険金の受取割合」などの記載がないからです。
正しい受取人や受取割合がわからなければ、税理士だけではなく家族にも大きな影響を与えるため注意が必要です。

そこで今回は、かんぽ生命で死亡保険金を受け取る際に必要な書類を請求する方法と、受取トラブルや不正確な相続税申告を防ぐ方法を解説します。

【要注意】かんぽ生命の死亡保険金支払明細は正確な「受取人」と「受割割合」がわからない

税理士が「かんぽ生命の死亡保険金支払明細だけでは書類が足りない」と言う理由は、支払明細に正しい保険金受取人受取割合の記載がないからです。

通常の保険会社であれば、支払明細には契約者・被保険者・保険金受取人の記載があります。受取人が複数であれば、受取割合の記載もあるでしょう。
しかし、かんぽ生命の支払明細にはこれらの記載がなく、保険金振込先である口座名義人氏名しか明記されません。また、かんぽ生命では代表者1人の受取が徹底されていて、分割振込は対応してもらえません。受取人が複数いても振込先は代表者1人だけになるため、支払明細に記載されるのは代表者1人の口座だけです。
そのため、受取人が本当に1人だけなのか、それとも他に受取人がいるのか、まったく判断できない支払明細になっているのです。

保険金請求時に保険証券を提出してしまい手元に支払明細しかない状態だと、税理士は本来の契約関係や正当な受取人の特定ができません。相続税の対象になるかどうかもわからないため、書類として使えないと言うことになるのです。

税理士から受取人と受取割合を特定できる書類を入手するよう言われたら、以下の方法で請求してください。

対処法1:受取人が複数いる場合はコールセンターか郵便局窓口で証明書を請求する

死亡保険の受取人が複数指定されている場合は、契約関係だけではなく、受取人と受取割合の特定が必要です。そこで、かんぽ生命のコールセンターか郵便局の窓口で事情を説明すれば、「死亡保険金の受取人及び支払割合について」という題目の証明書を取得できます。

<実際の証明書>

<証明書に記載される項目>

  • 保険証券記号番号
  • 保険種類
  • 保険契約者氏名
  • 被保険者氏名
  • 保険金受取人
  • 死亡保険金の支払割合

なお、かんぽ生命で受取人を複数指定している場合、受取割合は均等配分です。3人いれば3分の1ずつ、2人いれば2分の1ずつの受取割合になります。証明書ではその旨の記載もあるため、受取人が兄弟姉妹全員などという際は、こちらの証明書を取得してください。
「そもそも受取人が1人なのか複数なのかがわからない」場合も同様です。

対処法2:受取人が1人だけの場合は保険証券の写しをコールセンターで請求する

受取人が1人だけとわかっている場合は、契約関係と受取人の特定ができる保険証券(保険証書)の写しがあればいいでしょう。すでに死亡保険金の請求を終えている場合、保険証券の原本は保険会社に提出しているはずです。
手元に写しを取っていないという場合は、保険金受取人がかんぽ生命のコールセンターに電話をして、保険証券の写しを請求してください。

<実際の保険証券(保険証書)の写し>

<かんぽ生命コールセンター電話番号>
0120-552-950

なぜ受取人がわからないと困るのか|税理士だけではなく家族にも影響あり

前段では税理士視点で必要書類を案内しましたが、正しい受取人が特定できず困るのは税理士だけではありません。家族にとっても、受取人の特定は非常に重要です。特定しなければ、以下のようなトラブルが起こりうる可能性があるからです。

本当は受取人が複数いるのに、受取代表者が保険金を1人占めしてしまう

かんぽ生命では、受取人が複数指定されていても代表者1人の口座にしか振り込まれません。この代表受取によってトラブルになる可能性があります。

たとえば、とある死亡保険契約の受取人が長女・長男・次女の3人に指定されていたとします。かんぽ生命では死亡保険金の分割振込はできず代表受取となるため、支払明細には長女1人の口座名義しか明記されません。

  • 死亡保険の契約者・被保険者:母親(被相続人)
  • 死亡保険金受取人:長女、長男、次女の3人
  • 支払明細の記載:代表として受け取った長女の口座名義のみ記載される

長女が保険金を受け取り、他の2人に保険契約の存在を明かさず1人占めしてしまう。
代表受取と簡素な支払明細の存在によって、このような受取トラブルが発生する可能性があります。

死亡保険金は受取人固有の財産として遺産分割の対象外になることから、こうした保険契約が見過ごされるケースは少なくありません。郵便局で言われるがまま保険金請求をして、支払明細にも記載がないため、「本当に自分だけが受取人なんだ」と勘違いしまうケースもあります。

税理士無しで不正確な相続税申告をしてしまう

税理士は正しい申告を行うために、先述した保険証券契約関係の証明書等を要求します。しかし実際には、相続税申告において保険証券や契約関係の証明書等は必須書類ではありません
そのため、税理士に依頼せず相続税申告ソフト等を使って1人で申告するような場合、受取関係等を確認しないことで不正確な相続税申告になってしまう可能性があります。

実際に受け取った人と本来の受取人が違えば、当然ながら相続税額も変わってきます。本来の受取人であり相続税を納めるべき人が納めなければ、追徴課税の対象になるでしょう。税理士であれば契約関係の所在は念入りに確認しますが、個人だとこうした確認をおざなりにしてしまいがちです。

相続税申告ソフトを使って個人で申告する場合でも、上述した書類を請求して正当な受取人を特定するようにしてください。

かんぽ生命は保険金受取人の考え方が独特!受取人が死亡している際も気をつけよう

そもそも、かんぽ生命の死亡保険金支払明細でなぜ受取人等の記載がないかというと、受取人に対する考え方が独特だからです。そのため、すでに保険金受取人が死亡していて無指定状態になっている際も注意が必要です。

かんぽ生命では保険金受取人=法定相続人ではない

死亡保険金受取人が無指定状態になっている際、通常の死亡保険だと保険金受取人になるのは「亡くなった受取人の法定相続人」です。
しかし、かんぽ生命は独自の遺族制度を設けているため、法定相続人ではなく「亡くなった受取人の遺族」が受取人になります。
受取人が複数いる際の受取割合も、法定相続分ではありません。受取割合はかんぽ生命の約款に明記がないため、基本は民法427条に則り、受取人全員に均等に配分されます。

引用:かんぽ生命「遺族制度」p15より

法定相続と遺族制度では、受取人がどう違うのかを見てみましょう。

  • 契約者・被保険者:祖母
  • 受取人:父親(すでに死去)
  • 遺された家族:配偶者と子ども3人(長男、長女、次男)
受取人になれる人受取割合
 法定相続の場合配偶者と子ども3人配偶者:2分の1
子ども:各自6分の1
かんぽ生命の遺族制度の場合配偶者配偶者が全額受け取る

通常の保険契約は法定相続となるため、亡くなった受取人の配偶者と子どもが受取人になります。一方で、かんぽ生命の遺族制度では、受取人になるのは配偶者のみです。
法定相続と違い、遺族制度では常に第一順位の人だけが受取人になり、複数人いる場合は均等配分となります。通常の保険とは受取人の考え方が違うため、保険金請求時だけではなく、受取人が無指定状態の際も注意が必要です。

死亡保険金は遺産分割の対象外だが…

かんぽ生命で死亡保険契約がある人は、請求時に「正当な保険金受取人と受取割合が記載された証明書」もあわせて請求しましょう。保険証券の写しでも保険金受取人は特定できるのですが、受取人が複数いる場合には、受取割合が均等であることの証明があったほうが確実です。

正当な受取人と受取割合がわかれば、代表受取人が保険金を一人占めしてしまう、不正確な相続税申告をしてしまうという事態を防げます。
死亡保険金は遺産分割の対象外とはいえ、保険金受取割合を考慮したうえで遺産分割を進めたほうが、相続における不公平感もなくなるでしょう。受け取るべき人が保険金を受け取ること、そして相続のバランスを均衡に保ち争続トラブルを避けるためにも、受取人の特定と証明は重要です。

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執筆者

服部ゆい
京都市在住。金融代理店にて10年勤務したのち、2018年よりフリーライターとして独立。
金融・不動産・ビジネス領域の取材・執筆を中心に活動中。

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この記事の監修者

石倉 英樹(相続専門の公認会計士・税理士)

監査法人トーマツ、独立系コンサルティング会社で業務の経験を積み、2013年に相続税専門税理士として独立。相続において大切なことを伝えるべく「笑って、学んで、健康に」をモットーに、社会人落語家「参遊亭英遊」としても活躍。高座に上がる回数は年間80回超。著書に『知識ゼロでもわかるように 相続についてざっくり教えてください』(総合法令出版)がある。 HP:埼玉・大宮あんしん相続税相談室

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