相続専門コラム
法定相続人がいない「おひとり様」の方の中には、財産を友人やお世話になった人に渡したいと考えている方も少なくないでしょう。
この場合、生前に遺言書を作成して遺贈することになりますが、第三者への遺贈は通常の相続と比べて相続税が非常に高くなります。
本記事では、おひとり様の遺贈における相続税の計算や節税方法等をご紹介していきます。
目次
そもそも遺贈とは何なのかについて簡単におさらいしたいと思います。
通常、人が亡くなると、亡くなった方の所有していた財産は配偶者や子供等の法定相続人で分けることになります。このことを「相続」と言います。つまり、「相続する」「相続させる」とは、法定相続人の間だけで使われる言葉になります。
一方、「遺贈」とは、自分の死後の財産の処分について誰にどういった割合で引き継ぐのか生前に遺言によって指定することで財産を譲ることを指します。
相続と違い、遺贈の相手は、法定相続人だけではなく第三者や法人・団体の場合を含みます。親族でない第三者が遺言によって遺産を引き継ぐ場合は、必ず遺贈となります。
相続における「おひとり様」とは、法定相続人が誰もいない状態です。
これは「故人に配偶者、子ども、孫、両親、祖父母、曾祖父母、兄弟姉妹、甥、姪が誰もいない」状態であり、元々の家族構成または相続放棄によって発生します。
親戚がいても法定相続人がいない状態が起こる理由は、法定相続人の順位が以下のように法律によって定められているからです。
第一順位 | 子ども(代襲相続に制限なし) |
第二順位 | 両親(代襲相続に制限なし) |
第三順位 | 兄弟姉妹(代襲相続は一代のみ) |
配偶者がいる場合は、配偶者は常に法定相続人となり、それに加えて上記の順位表において高順位の関係性を持つ者が法定相続人になります。高順位の法定相続人がいる場合は、低順位の者の相続分はなくなります。
例えば、子どもがいる場合は、子どもより低順位である両親や兄弟姉妹に相続分はありません。
また、故人に配偶者がいても、第一順位である子どもと子どもに代わる孫もいない場合は、両親が最も高順位になるため、両親が法定相続人になります。
ここで重要なのは、第三順位の代襲相続に制限があり、甥や姪より先には代襲相続されないということと、叔父や叔母には相続権がないということです。
結果、「故人に配偶者、子ども、孫、両親、祖父母、曾祖父母、兄弟姉妹、甥、姪が誰もいない」という状態になると、たとえ交流のある親しい親族がいても、「法定相続人が誰もいない」という状態になります。
被相続人に法定相続人がおらず、遺言書もない場合は、検察官または被相続人の利害関係者(債権者など)により、家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てる請求が行われます。
その後、公告を経ても相続人や受遺者の申し出がない場合、「相続人不存在」が確定します。
特別縁故者(内縁の妻など)が存在する場合は、相続人不存在の確定後、3か月以内に特別縁故者が家庭裁判所に申し立てることで相続財産分与が認められる場合がありますが、家庭裁判所の判断次第となります。
そして、特別縁故者に財産を分与して遺った財産(特別縁故者もいなかった場合は全財産)は最終的に国庫に帰属することになります。
上記のように相続人不存在の場合、最終的に財産は国庫に帰属することになってしまいます。
また、内縁の妻などの特別縁故者がいる場合でも、その人が財産を受け取るためには家庭裁判所に申し出る必要があり、申し出てもそれが認められるかどうかは家庭裁判所次第となります。
ですので、「おひとり様」が、自分の財産を渡したい特定の誰かがいる場合は、必ず遺言で指定する必要があります。
遺言で財産を遺すことが出来ても、法定相続人がいない場合の次の問題点として、相続税額が高くなってしまうという点があります。
その理由について解説していきたいと思います。
まず、相続税を計算するうえで、最初に基礎控除額を差し引くことができますが、相続税の基礎控除額は以下の計算式で求められることになっています。
相続税の基礎控除額:3,000万円+600万円×法定相続人の数
例えば、妻+子2人の家庭であれば基礎控除額は3,000万円+600万円×3人=4,800万円となります。
一方、法定相続人が誰もいないケースでは、基礎控除額は3,000万円だけとなりますので、法定相続人がいる場合に比べて課税対象が多くなります。
また、相続税の計算では、財産を取得する人が被相続人の一親等の血族(代襲相続人となった孫を含む)と配偶者以外の人の場合には、相続税額に2割加算する制度があります。
2割加算の対象にならない人 | 配偶者、子、両親、子の代襲相続人、養子 |
2割加算の対象になる人 | 祖父母、兄弟姉妹、孫養子、受遺者 |
▶2割加算についてはこちら:
相続税の2割加算で得する人、損する人ー図解で解説
また、法定相続人がいない場合、何人で分けようが相続税の総額が安くなりません。
法定相続人がいる場合、相続財産の課税価格合計額から基礎控除額を差し引いた後に、法定相続分に応じた仮分配をして、それぞれの額を以下の速算表に当てはめて相続税の総額を算出します。
課税価格 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | ー |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
例えば、相続財産が1億円、妻1人、子2人の場合の計算の流れは以下の通りであり、配偶者が1/2を取得する場合は配偶者控除で配偶者の分は非課税になりますので、相続税は315万円となります。
・課税遺産総額:1億円-4,800万円=5,200万円
・相続税の総額:妻340万円+子145万円+子145万円=630万円
【計算方法】
1.課税遺産総額を法定相続分に従い仮分配
妻5,200万円×1/2=2,600万円
子5,200万円×1/4=1,300万円
子5,200万円×1/4=1,300万円
2.相続税率をそれぞれ掛ける
妻2,600万円×15%-50万円=340万円
子1,300万円×15%―50万円=145万円
子1,300万円×15%―50万円=145万円
・納税額の計算:相続税の総額を各人の相続分で按分、ただし配偶者控除あり。
一方、法定相続人がいない場合には受遺者が例え上記の例と同じく3人いたとしても仮分配による相続税の計算は行われず遺産総額を速算表に当てはめて計算するため税率が高くなり、2割加算もあり、相続税は1,680万円となります。
・課税遺産総額:1億円-3,000万円=7,000万円
・相続税の総額:7,000万円×30%―700万円=1,400万円
・納税額の計算:それぞれの相続分に応じて按分、さらに2割加算あり。
以上のように同じ3人に対する相続税であっても、おひとり様の相続税は数倍高くなります。
さらに、法定相続人以外の人が遺贈を受ける場合、相続税以外にも登録免許税の税率や不動産取得税のコストが上がることにも注意が必要です。
登録免許税は、不動産等の登記をする際に支払う必要のある税金ですが、その税率は「相続」の場合と「相続人以外の受遺者」の場合では異なります。
・法定相続人の場合の登録免許税:固定資産税評価額×0.4%
・法定相続人以外の受遺者場合の登録免許税:固定資産税評価額×2.0%
これは、法定相続人の場合、「相続による所有権移転」とみなされる一方、遺贈の場合は「贈与」扱いになることが理由です。
例えば、固定資産税が1億円の不動産の所有権移転をする場合、法定相続人の場合は40万円ですが、法定相続人意外の受遺者の場合は200万円と非常に高くなります。
不動産取得税は、不動産を取得した個人や法人に課される税金ですが、通常の相続の場合は課されないこととなっています。しかし、法定相続人以外への「特定遺贈」の場合、不動産取得税が発生します。
遺贈には特定遺贈と包括遺贈があり、それぞれ以下のような特徴があります。
・特定遺贈:特定の財産を指定して行う遺贈のこと
〇〇の不動産を遺贈する、〇〇の預貯金を遺贈するといった遺贈
・包括遺贈:相続財産の全部又は一部等、相続割合を指定して行う遺贈のこと
遺産の1/3を遺贈する。遺産の半分を遺贈するといった遺贈
通常の相続でも相続税に悩まされる方が少なくありませんが、法定相続人以外の方に遺贈する場合、通常の相続以上に相続税が高くなってしまいます。
そこで、法定相続人以外に遺贈を検討している方は、生前から以下のような節税方法を実践してみるとよいでしょう。
法定相続人以外の方へ遺贈を考えている場合、生前から少しずつ贈与していくことで節税できます。
贈与には毎年110万円の基礎控除があり、この制度のことを暦年課税と呼びますが、この基礎控除枠は友人・知人に対しても利用可能です。
例えば、1,500万円の遺贈を検討しているのであれば、毎年150万円ずつ10年間にわたり贈与するといった方法を取ることで、毎年40万円に対する贈与税を支払うだけで済ませることができます。
ただし、上記のように毎年150万円ずつ、10年にわたって贈与を行った場合、贈与を始めた年に1,500万円の一括贈与をした(定期贈与)とみなされてしまう可能性があるので注意が必要です。
定期贈与として課税されるかどうかの違いは「あらかじめ取り決めがあったかどうか」だとされています。定期贈与とみなされないために、毎年贈与契約書を作成するなどの方法がありますが、税務署ごとに対応が異なる可能性もあるため、詳細は税理士に相談するようにしましょう。
法定相続人ができれば、「おひとり様」ではなくなりますので、基礎控除額も増やすことができ、その方(養子)への相続は2割加算ではなくなります。
また、法定相続人がいる場合でも遺言書を作成すれば、法定相続人以外の方に遺贈することができるので相続税額を減らすことを目的に養子を迎えることも一つの方法です。
ただし、養子には遺留分がある点に注意が必要です。
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ただし、法定相続人が1人もいない場合は利用できませんので、その場合は、当社税理士によるシンプル相続をご利用ください。
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今回は、法定相続人が一人もいない場合のおひとり様遺贈についてお伝えしました。
ご紹介した通り、遺贈における相続税額は通常の方法による相続より高くなってしまいます。
特に不動産等、資産価値が高いのにも関わらず換金が難しい財産の場合は、受遺者が納税に困る場合も考えられます。おひとり様で遺贈を考えている方は、本記事でご紹介した節税法等、早い段階から計画を立てて進めていくことが大切だといえるでしょう。
監査法人トーマツ、独立系コンサルティング会社で業務の経験を積み、2013年に相続税専門税理士として独立。相続において大切なことを伝えるべく「笑って、学んで、健康に」をモットーに、社会人落語家「参遊亭英遊」としても活躍。高座に上がる回数は年間80回超。著書に『知識ゼロでもわかるように 相続についてざっくり教えてください』(総合法令出版)がある。 HP:埼玉・大宮あんしん相続税相談室