相続専門コラム
「亡くなった親がネット銀行に口座を持っていたが、通帳もキャッシュカードもなく、銀行がわからない」「親が使っていたキャッシュレス決済の残高を確認したいが、スマホのパスワードがわからない」
相続の際、こうした“デジタル遺産”の扱いで困る人が増えています。
デジタル遺産は目に見えないデジタル形式の財産の総称です。遺産の種類によって適切な対処法や課税の有無が異なるため、相続時は扱いに注意が必要です。
本記事ではデジタル資産の具体例と種類別の相続の扱い、遺族のためにできる生前対策を解説します。相続発生後の対処法も案内しているため、デジタル遺産の扱いを知りたい人、すでに困っている人はぜひ参考にしてください。
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デジタル遺産とは、亡くなった人(被相続人)が生前に保有・利用していたデジタル形式の財産全般を指す言葉です。法的な定義はありませんが、一般的には金銭的価値のあるものを「デジタル遺産」、それ以外の遺産を「デジタル遺品」と呼びます。
被相続人が生前に所有していた資産のうち、金銭的価値のあるものをデジタル遺産と呼びます。具体的には、次のようなものが該当します。

デジタル遺産には金銭的価値があるため、原則として相続および相続税の課税対象です。ただし、一部のポイントサービスや電子マネーは例外的に相続税がかかりません。

相続税がかからないデジタル遺産には、被相続人にのみ利用が認められるポイントや電子マネーがあります。たとえば、クレジットカードのポイントは基本的に会員(被相続人)のみに権利が付与されるため、第三者への譲渡(相続)ができません。
この場合、たとえ相続人であってもポイントの引き継ぎや換金ができないため、相続および相続税の課税対象外となります。なお、ポイントでも航空会社のマイレージサービスは第三者への譲渡(相続)が可能です。サービスによって相続可否は異なるため、詳細は利用規約の確認が必要です。
PayPayやSuicaなど、代表的なスマホ決済・電子マネーの相続可否はこちらの記事で紹介しています。あわせて参考にしてください。

被相続人がデジタル形式で所有していた資産のうち、金銭的価値のないものはデジタル遺品と呼ばれます。具体的には、次のようなものが該当します。
※フォロワー数が多く換金可能なアカウント、作家や著名人の遺品を除く
上記のように、金銭に見積もることが難しいコンテンツや権利は、一般的には相続税の対象にはなりません。
ただし、アカウントはなりすましや悪用の恐れがあり、定額制サービスは解約しなければ継続料金が発生します。また、写真や動画などのデジタルデータは故人の人生にかかわる重要な記録です。課税されないとはいえ大切な遺品となるため、処分や整理方法をどうするか、家族間でしっかりと話し合いましょう。
被相続人がダウンロードした電子書籍や音楽などのデジタルコンテンツも、相続および相続税の対象外です。紙の本や音楽CDとは異なる扱いとなる点に注意してください。
被相続人が所有していた紙の書籍やCD、レコードなどは、相続人が取得できる財産の一つです。実体があるため売却も可能で、希少価値が高い物は金銭的価値があるとされ、相続税の対象になることもあります。
一方で、被相続人がデジタルプラットフォームより有料でダウンロードした電子書籍や音楽の利用権は、原則として第三者に譲渡できません※。相続発生と同時にサービスは終了し、被相続人の利用権も引き継げないのが通常です。相続できないため、相続税の課税対象にもなりません。
なお、AppleとGoogleではデジタルコンテンツを家族グループで共有できるサービスがありますが、これは使用権の譲渡(相続)ではなくあくまで共有機能です。購入者の1人が亡くなると、その人の共有コンテンツにはアクセスできなくなります。
※自由に複製・利用できる「DRMフリーコンテンツ」など、一部例外あり

デジタル遺産は存在の把握や特定が困難なため、さまざまな金融トラブルにつながる恐れがあります。
代表的な金融リスクは次の5つです。

デジタル遺産はデジタル管理ゆえ、被相続人がどんな口座やサービスを利用していたかわからないことが多々あります。調査のために被相続人のスマホやパソコンを調べようと思っても、パスワードロックを解除できず困る人は少なくないでしょう。
結果として金融資産の有無や金額すらわからず、「あるはずの資産を受け取れない」という状態になる可能性があります。

デジタル資産の中には短期間で資産価値が大きく変動するものがあります。相続発生時には早急な確認が必要ですが、財産調査ができない場合、対処のしようがありません。
特に注意したいのは、FXや先物・オプション取引、株の信用取引における証拠金や暗号資産です。相続発生時にこれらの取引や資産を放置していると、短期間で相場が急変した際に大きな損失につながる恐れがあります。
先物・オプション取引相続の注意点はこちらの記事でも解説しています。参考にしてください。

財産調査が不十分になることで、意図せず相続財産の計上漏れになってしまうリスクもあります。
相続財産に加える資産は、実際に受け取ったかどうかではなく、相続人として受け取る権利があるかどうかで判断します。デジタル遺産の存在を把握しているものの手続きを放置している場合、実際に遺産を受け取っていなくても相続税申告は必要です。
デジタル遺産の調査や相続手続きをせず、わかっている資産のみを相続財産として申告しても、後で多額のデジタル資産が発覚すれば、税務署から申告漏れを指摘され可能性があります。単に財産を受け取れないだけではなく追徴課税が発生するリスクもあるため、デジタル遺産は軽視できません。

被相続人に借金がある場合、その返済義務は原則として相続人に引き継がれます。しかし、デジタル遺産だとカードや紙の利用明細がなく、借入れがある事実に気付かないこともあります。
預貯金を相続後にカードローンの督促状がきて、初めて借金の存在が発覚する、というケースは少なくありません。通常借金の有無を知らなければ相続を放棄できる可能性がありますが、家庭裁判所への申し立てが必要です。場合によっては放棄できない可能性もあり、その際は被相続人の借金をすべて返済しなければなりません。
こうした「負のデジタル遺産」はカードローンだけではなく、クレジットカードのキャッシングや消費者金融からの借入れも含まれます。

すでに相続が発生している場合は、以下の流れでデジタル遺産の確認と手続きを進めてください。

基本的に、デジタル端末のパスワードロックを簡単に解除する方法はありません。
スマホの通信事業者(キャリア)や各端末のメーカーに依頼しても、ロック解除に応じることはまずないでしょう。そのため、各端末のロック解除は「心当たりのあるパスワードを入力する」方法から始めます。遺品もチェックし、数字が書かれたメモなどの手がかりをもとに解除を試みてください。
スマホやパソコン以外の外部メディア(USB、microSDなど)が暗号化されている際は、製品によって解除方法が異なります。製品によってはパソコン側で暗号化を解除できることがあるため、外部メディアのメーカーサイトで詳細を確認してみてください。

デジタル端末のロック解除ができなくても、故人が利用していたスマホやパソコンのOSアカウントによって、例外的にアクセスできるケースが2つだけあります。
| Apple (スマホ・パソコン) | Google (スマホ・タブレット) | Microsoft (タブレット・パソコン) | |
|---|---|---|---|
| 1.連絡先として指定されていた場合 | 相続人が「故人アカウント管理連絡先」に指定されている場合、 ・アクセスキー ・故人の死亡証明書 を用意してアクセス申請 | 相続人が「アカウント無効化管理ツール」の連絡先に指定されている場合、死後一定期間経過すると、共有対象データについてGoogleから連絡が届く | Apple・Googleのような仕組みはない |
| 2.1の指定がない場合 | 法的書類を用意して公式フォームより申請 ※詳細はこちら | 法的書類を用意して公式フォームより申請 ※詳細はこちら | 法的書類を用意して公式フォームより申請 ※詳細はこちら |
AppleとGoogleでは、亡くなった後に遺族がアカウントの特定データにアクセスできる仕組みがあります。被相続人が生前に相続人のうち誰かを連絡先に指定していれば、指定された人はアカウントにアクセスしてデジタル遺産を確認可能です。
生前に連絡先指定がなかった、あるいはMicrosoftのように仕組み自体がない場合は、裁判所命令など法的書類を揃えて公的に故人のアカウントに申請する方法があります。現実的にはハードルが高く、1で指定がなければアカウントへのアクセスは諦めるしかないでしょう。
スマホやパソコンのパスワード解除専門業者に依頼する方法もあります。しかし、安全性や解除の保証はできず、推奨できません。

被相続人が使っていた金融機関やサービスの名称がわかれば、事業者に直接問い合わせて相続手続きを行うことが可能です。遺品やデジタル端末から利用の足跡をたどり、手がかりを集めて問合せてみてください。
なお、各資産の調べ方は以下の記事でも紹介しています。参考にしてみてください。

デジタル遺産の存在は遺族にさまざまな金融リスクをもたらします。
生前に行うべきデジタル遺産対策の流れを解説しましょう。

まずは、ご自身がどのようなデジタル資産を所有しているのかを洗い出し、整理していきます。
なお、スマホ内の写真や動画などの「デジタル遺品」については、家族に残したいものを選別し、共有方法を検討しましょう。見られたくないデジタル遺品は外部メディアに記録し、死後に破棄してもらうよう処分のみ託す方法もあります。

STEP1で作成した一覧リストに、各デジタル資産の情報(金融機関名など)やスマホのパスワードなどをまとめておきます。自分の死後にまとめた情報を共有できる仕組みを作っておけば、遺族がスムーズに相続手続きを進められるでしょう。
| 共有方法 | 概要 |
|---|---|
| ①紙の財産目録やエンディングノート | デジタルリスクがなく遺族に共有しやすい。紛失リスクがあるため、金庫などで遺言書とあわせての保管を推奨 |
| ②終活アプリやデジタルメモ | 管理しやすく情報をまとめやすい。緊急アクセス機能があれば、家族に死後情報を共有できる |
| ③パスワードマネージャー | パスワードの一元管理を安全にできる方法。緊急アクセス機能があれば、家族に死後情報を共有できる |
| ④故人アカウントアクセス機能を活用 | AppleやGoogleでは自分の死後、あらかじめ指定した人が自分のアカウントにアクセスするための機能がある |
デジタルに不慣れが家族がいる場合は、紙で共有する①の方法が有効です。デジタル慣れしている家族がいる場合は、管理しやすい②や③の方法も検討してみてください。
④はすべての人におすすめできる共有機能です。AppleやGoogleで生前に信頼できる人の連絡先を指定しておけば、自分の死後、その人がアカウントにアクセスし、特定のデータを共有できるようになります。

自分1人の生前対策に不安がある人、身寄りがいない人などは、必要に応じて専門家に相談してください。
【悩み別の相談先】
なお、各種自治体で終活の無料相談窓口を設けていることがあります。「いきなり専門家に相談するのはハードルが高い」という人は、公的な窓口で情報収集したうえで専門家に相談するかどうかを検討しましょう。

STEP2でまとめたデジタル資産のアクセス情報は、時間の経過とともに変わるものです。定期的にリスト内容を見直し、デジタル資産の内容やID・パスワード情報をアップデートしておきましょう。
そして、信頼できる家族にデジタル遺産の存在を伝えておくことも重要です。あらかじめ遺産の有無やサービスの利用状況、死後にアクセス情報を共有する方法などを伝えておき、「自分が亡くなったときにデジタル遺産をどうしてほしいのか」を明確にしておきましょう。
「争続」の多くは生前のコミュニケーション不足によって起こります。特にデジタル遺産は目に見えない性質から、「他に隠し財産があるのでは」「一部の相続人が不当に取得しているのでは」など、相続人同士の疑心を招く要因になりがちです。技術的な対策とあわせて、相続人とのコミュニケーションも忘れないようにしてください。

デジタル遺産の相続について、関連する疑問をQ&A形式で解説します。
不正アクセス禁止法では、他人のID・パスワードを利用して各種サービスやアカウントにログインする行為を禁じています。相続人や遺族であっても例外規定はなく、たとえ相続財産の調査でも、故人のスマホからログインすれば違法とみなされる可能性は否定できません。
そのため、デジタル遺産の調査でスマホやパソコンを確認する際は以下の2つに気をつけてください。
この手順を徹底し、さらに相続人全員の承諾を得たうえで中身を確認するようにしましょう。
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情報開示請求には500円~2,000円程度の手数料がかかります。詳細は各信用情報機関にてお尋ねください。
京都市在住。 金融代理店にて10年勤務したのち、2018年よりフリーライターとして独立。 金融・不動産・ビジネス領域の取材・執筆を中心に活動中。